お子様には早すぎるジブリアニメ! こちら宮崎駿監督の「何か」があふれた異色作です

スタジオジブリ作品のイメージというと、現実的な舞台にもファンタジー要素が入りまじり、自然や命を大切にするやさしい世界観、といったところかもしれません。ところがそのなかに、異色の宮崎駿監督作品が存在するのをご存じでしょうか。 その名は『On Your Mark』(1995年)、「CHAGE and ASKA」の同題楽曲のために作られた、わずか6分30秒のミュージックビデオ(以下、MV)です。2025年現在、流通しているパッケージとしては、「ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016」DVD/Blu-rayに収録されています。 「異色」という理由はひとえに、ブランドイメージを揺るがしかねないその作品性にあります。ひと目で宮崎アニメとわかるものの、同時に心がささくれ立つような違和感が特徴です。 ●桜の代紋を付けた警察が教団を襲撃! その違和感の正体は陰鬱な世界観と容赦のない暴力描写にあります。映像の冒頭では、桜の代紋(日本の警察の徽章)とPOLICEのロゴを掲げた垂直離着陸機(VTOL)が高層ビルへ強襲突入します。 マスクで顔を隠し、自動小銃や手榴弾で武装した男たちは武装警官なのでしょう。そして機内には「KILL」の文字が見えます。 どうやら襲撃対象は邪教集団のようです。鐘のような祭具や目のマークの付いた三角頭巾などから怪しげな雰囲気を感じます。彼らも武装しており、躊躇せず銃撃してきます。 武器を持った教団員だけでなく、無抵抗の人間まで容赦なく掃射する警官たち。完全に訓練された殺戮者の動きです。襲撃前の機内に灯った「KILL」の文字が脳裏をよぎります。 本MVの主役であるふたりの男(素顔から明らかにASKAとCHAGEだとわかる)は、囚われていた翼のある少女を助け出します。襲撃の目的は教団員の逮捕ではなく、彼女の確保だったのでしょう。 しかし少女が運ばれるVTOLには危険物を示すハザードシンボルが描かれています。衰弱した少女が連れて行かれるのは、病院ではなく研究室ではないでしょうか。 その後、罪悪感にかられたASKAとCHAGEは再び少女を救出、追手を振り切って少女とともに閉ざされた地下都市から光あふれる地上を目指します。 ●歌詞の解釈がヤバい! この容赦のない展開が『On Your Mark』の楽曲をバックにリフレインするのですが、歌詞には教団や銃撃戦、翼のある少女のイメージはまったく見られません。 ただ「位置について(On Your Mark)、走り出せ」と、都会で夢を追う若者を励ます叙情的な楽曲です。宮崎監督はその一節を、警官が平気で殺戮をするような陰鬱な現実から「翼の生えた希望」を連れ出す物語へと読み替えたのでしょう。 ●優しさと残酷さ 宮崎監督はマンガ版『風の谷のナウシカ』で血みどろの戦争と優しさ、気高い精神を描いています。しかしTVアニメや映画の仕事ではそれらの表現をセーブしてきました。 その宮崎監督がアニメでも激しさと優しさの両面を描くようになった『もののけ姫』(1997年)が公開されたのは、このMVから2年後のことです。MVには演出実験的な要素があったのかもしれません。 この異色のMVは、ジブリ作品の「優しさ」や「理想」が、残酷な世界を直視したうえで選び取られたものだと教えてくれます。機会があれば、この異色の6分30秒に触れてみてください。これまで思い描いていた宮崎駿像が更新されるでしょう。

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