政治経済学者パトリック・デニーンが予測する「米国では民主党が長い冬眠期間に入る可能性がある」

政治哲学が専門の米ノートルダム大学のパトリック・デニーン教授は、リベラリズムやその現代社会への影響について批判的に論じてきた仕事で知られる。2019年に刊行された主著『リベラリズムはなぜ失敗したのか』は、各方面で絶賛され、オバマ元大統領も評価した。そんなデニーンに、フランス「フィガロ」紙が米国政治に何が起きているのかを聞いた。 ──2025年2月14日のミュンヘン安全保障会議では米国の副大統領J・D・バンスの演説が注目されました。あの演説をどのように解釈していますか? あの演説の狙いは、欧州の政界に電気ショックを与えることでした。10年以上前から、米国を含む西側のリベラル・デモクラシー陣営の支配階層は、リベラリズムを守るためなら、リベラリズムに反する手段も使っていいと考えてきました。「進歩主義という大義のためなのだからいい」という理屈で、言論の自由が抑え込まれ、SNSの検閲が試みられ、米国際開発庁(USAID)を使って公金を動かし、新型コロナ感染症対策としてロックダウンが断行されました。 リベラリズムに反対する政党に対しては、権力を握れないように壁が築かれました。「内なる敵」とみなされた人物は逮捕され、ときには選挙結果が無効にされました。「民主主義」を守るという名目のもとで、リベラリズムに反する一連の措置がとられてきたのです。 でも、本当のことをいうと、これは「民主主義」を守っているのではなく、「リベラリズム」を守ろうとしていたわけです。民主主義という仕組みは、リベラルにとって都合のいい選挙結果を出すときだけ、是認してもらえるものに格下げされてしまったのです。 逆に、世論がリベラリズムに反発すると、リベラルのエリートは、選挙結果を「ポピュリズム(大衆迎合主義)」と評して、正当だと認めようとしませんでした。そのため、イタリアやハンガリーなどについて、「あの選挙結果は、民主主義への脅威だ」とする珍妙な論理がまかり通ることになったのです。 バンス副大統領は、欧州に民主主義を復興させようと呼びかけたわけです。ただ、その民主主義の復興は、欧州人が自らの手でしなければなりません。20世紀、欧州は米国の支援を受けて、ファシズムや共産主義の暴政を終わらせることができました。 しかし、いまの欧州にとって、大きな脅威になっているのは、欧州内のリベラルな秩序による暴政だと伝えたのです。欧州の人民を息苦しくさせているリベラルの暴政に米国が肩入れすることはもうないとバンスは、きっぱりと言い切りました。 欧州諸国は、自国民の判断力を信頼し、民主主義をもっと発展させていかなければなりません。民主主義で決めたことなら、たとえリベラリズムがある程度、弱まる結果になるとしても、国境管理を強化し、EUの権力を制限し、国民としてのアイデンティティの強化をすべきです。 ある意味では、米国は欧州を助けるつもりなのだというのがJ・D・バンスの主張です。ただし、かつてのように、米国がファシズムや共産主義の軍隊と戦うという意味ではありません。欧州は、自分で自分の首を絞めるかのようにリベラリズムの暴政を自分たちに課しています。米国は、その暴政に手を貸さないことで、欧州を助けようとしているというわけです。 米国政権は、欧州が抑圧的なリベラリズムを捨て、その代わりに国民国家への信頼を取り戻し、市民参加の民主主義を強化したほうが、いまよりも自律的な欧州になれると考えています。これまでは米国の政権がリベラルの覇権という幻想を支えてきたわけですが、その幻想をいつまでも維持するのは無理です。 米国政府は、リベラルの覇権を支持することからきっぱりと手を引くことで、欧州の基本的価値観や歴史的な特色、とりわけ自国市民への信頼といったものが回復すると期待しているわけです。

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