「友達親子なんて、しつけの放棄でしょ!」と危惧する父親。高校生の娘の外泊を許可する母親は甘いのか。「仲良し母娘」に問題はあるのか【専門家解説】

先ごろ、東京メトロ南北線の東大前駅で、男が乗客の大学生に包丁で切りつけて逮捕されるというショッキングな事件が起きた。逮捕された43歳の男は、動機のひとつとして「教育熱心が度を過ぎると子どもが犯罪をおかすと世間の親に示したかった」などと述べているという。 供述の中で「教育虐待」という言葉を使って自らの親の教育に対する不満も述べたというこの男。子供だった当時、その思いを言動で示すことはなかったのだろうか。 「最近、反抗期のない子どもの是非がしばしば議論となっているようですが、反抗期がなかったらどうなるとか、反抗期があるから健全、という法則はないと思います。 親からの抑圧が強くて反抗できない子もいれば、満たされていて反抗する必要のない子もいるでしょうから」 こう話すのは、育児や産後に関する相談に従事している心理カウンセラーの八百原桃子氏。大学病院などで助産師として勤務後、保健師としてのキャリアも積んだ、育児・家庭問題に詳しい今回の取材協力者である。 「確かに子どもの反抗期は、成長過程のひとつとして重要なものととらえられています。子どもは親からの指示や意見に対し、本当にそれでいいのかと疑問を持ち、葛藤したり衝突したりすることで徐々に自己を抑制できるようになったり、親から自立したりしていくものです」 一方で、それはあくまで一般論であり、たとえ反抗期がなくても、コミュニケーションが豊かで、日頃から議論や意見交換がさかんな親子であれば、子どもがわかりやすい反発を見せなくても、健全に育ち自立していくケースはいくらでもあるはず、と八百原氏。 「子どもは親との価値観や考えの相違を発見したとき、親とは異なる自分自身を認識します。それが原因でぶつかることは至って健全ですが、その衝突に代わる交流があれば、目立った反抗期が現れなくても不思議はありません」 今回取材に応じたのは、高校生の娘を持つ50代の男性である。この男性の娘には、これまで目立った反抗期がなかったが、それは「親をナメているから」ではないか、と感じているという。 「この父親は、妻と娘がいわゆる『友達親子』のような関係で、恋愛のことでも友達のことでも何でも話す間柄だと述べました。 一見良い関係のように思えるが、話を聞いていると、友達親子なんて、しつけの放棄でしょ!と危惧している。妻は単なるイエスマンになっているというのです。男性は、ウチの子は反抗期のないいい子などと言っている妻に強い疑問を抱いているといいます」 と八百原氏。いわゆる「友達親子」について八百原氏は… 「親子の境界線が薄くなり友達化することには、メリットもあります。何でも話しやすい環境があることで、子どもが悩みなどを楽に打ち明けられて孤独に陥りにくい点や、親が色んなことを理解していてくれることで自己肯定感が高まりやすいというものです」 と言う。しかし、その反面… 「反抗期に親とぶつかるという過程がないと、自己主張してそれを貫く、親の意見を覆そうと葛藤したり試行錯誤したりするといった経験が不足する場合があるかもしれません。 また、子どもが親に対する敬意を持ちにくくなって家庭内の秩序が乱れたり、子どもの自立の妨げとなるケースも考えられます」 取材を受けた男性の妻は、高校生の娘が彼氏と泊まることも二つ返事で承諾してしまうそうで、男性は、これでは親としての責任を果たしていないのではないかと危機感を強めていた。 「若い時には彼氏とずっと一緒にいたいものだと理解のある顔をしているが、同級生の男子生徒と泊まることにはリスクの方が多いと男性は考えています。妻は娘を危険から守ることより、ノーと言わないことでご機嫌を取っているように見えると…」 何を要望しても快諾する母親がいれば、反抗する必要がない。だから娘には反抗期がなかったのではないかと男性は語った。ちなみに、娘は父親の言葉にはほとんど耳を傾けないという。八百原氏はこう指摘する。 「この男性はこれまでに娘のことで何度も妻と衝突し、娘もそれを知っているといいます。母は自分の言うことを何でも聞いてくれる『いい人』。父親はその母親を叱る『悪い人』という構図ができ、父親はほとんど娘に相手にされないというのが男性の言い分です。 ただし、男性は娘が幼少期より、育児を妻に任せきりだったと証言。第7回全国家庭動向調査によると、妻と夫の育児負担割合は2022年で妻78.0%、夫22.0%となっており、子どもの成長期にあまり深く関われなかったという父親もいるかもしれません。 過ごした時間の長さだけで関係性を計ることはできませんが、このご家庭の場合、父親が仕事中心の生活をしている間に、母親と娘の関係が独自の成り立ちをしていった可能性もありますね」 友達親子は何でも話せるオープンな関係性が構築できる一方、しつけや指導をしづらくなる場面が生じることも想定できるため、メリハリのある対応を心がけることが重要だと八百原氏は話した。 【関連記事】「パパがママに3回目のデートで何したか知ってるよ」娘に何でも話してしまう「友達親子」。50代夫だけが知らなかった妻の本音とは、では、妻と娘の関係を通じ、家庭内で孤立していることに気づいた男性の経験についてレポートしている。 【取材協力】八百原桃子:大学病院・周産期母子医療センターなどで助産師として勤務後、行政保健師に転向。現在は後進指導や心理カウンセラーとして活動中。 【聞き手・文・編集】小澤みどり PHOTO:Getty Images 【出典】2022年社会保障・人口問題基本調査 第7回全国家庭動向調査 報告書より

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