化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件を巡り、社長らが東京都と国に賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(太田晃詳裁判長)は28日、1審に続いて警視庁公安部と東京地検の捜査を違法と認め、都と国に賠償を命じた。 大川原側は捜査の検証と公式の謝罪を強く求めており、2審でも「違法捜査」が認定されたことで警察、検察への批判が強まるのは必至だ。 社長らは、経済産業相の許可を得ずに噴霧乾燥器を中国と韓国に輸出したことが外為法違反に当たるとして逮捕・起訴された。訴訟では、噴霧乾燥器が輸出規制品に当たるかを判断する温度実験が適切だったか▽逮捕・起訴の根拠となった輸出規制省令の解釈は妥当だったか――が主に争われた。 1審・東京地裁判決(2023年12月)は、必要な温度実験を怠ったまま社長らを逮捕・起訴した公安部と東京地検の捜査を違法として計約1億6200万円の賠償を命じた。 一方、省令解釈は公安部と経産省の協議で決まったとし、「公安部が省令解釈をねじ曲げた」とする大川原側の主張は退けた。1審では証人尋問で現職の警視庁警部補2人が「事件は捏造(ねつぞう)」などと捜査を批判したが、この証言の信用性には言及しなかった。 こうした結果を不服として、大川原側、都・国側の双方が控訴した。 控訴審で大川原側は、公安部が経産省との協議内容をまとめた捜査メモを新たに提出した。メモには経産省が当初は公安部の解釈に否定的だった▽警察上層部が経産省に働き掛け、省令解釈が公安部寄りに突然変更された――ことを示唆する記載があった。この協議に同席した別の警部補が証人出廷し、メモの内容をおおむね事実とし、一連の捜査が「警察幹部の欲」で強行されたと新たな証言をした。 これらの証拠や証言から大川原側は「公安部が事件を捏造した」とし、東京地検も公安部の暴走をチェックすることを怠ったと主張していた。 これに対して、都側は経産省の省令解釈の公式見解は一貫して公安部の解釈と同じだと反論。経産省への不当な働き掛けはなく、温度実験も十分だったとしていた。国側も公安部から示された当時の証拠に基づけば、起訴に違法性はないと反論していた。【安元久美子】 ◇大川原化工機冤罪事件 化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長ら3人が2020年3月に外為法違反(不正輸出)で逮捕・起訴され、約1年4カ月後の初公判4日前に起訴が取り消された。社長らの勾留は約11カ月に及び、その間に胃がんが見つかった元顧問は被告の立場のまま死亡した。大川原化工機側は東京都と国に約2億5000万円の賠償を求めて提訴し、東京地裁は23年12月、警視庁公安部の取り調べと逮捕、東京地検の起訴の違法性を認めて計約1億6200万円の賠償を命じた。警視庁、東京地検は謝罪や検証をしていない。