化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件を巡り、社長らが東京都と国に賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(太田晃詳裁判長)は1審に続いて警視庁公安部と東京地検の捜査を違法と認め、捜査機関が「全面敗訴」する厳しい司法判断が下された。 警視庁と東京地検はこの事実を重く受け止め、一日も早く捜査の問題点を検証し、不当な逮捕・起訴だったと非を認めて謝罪すべきだ。 一連の訴訟では、法廷で3人の警視庁警部補が「(事件は)捏造(ねつぞう)」「捜査幹部がマイナス証拠を取り上げなかった」などと内幕を証言する異例の展開をたどった。 捜査方針に異を唱えた警部補の1人は、上司の警部から「事件が潰れて責任が取れるのか」と一蹴されたという。「上意下達」が重んじられる警察組織の中でも、幹部の意向が強く影響する公安警察の体質が、冤罪(えんざい)事件を通じて明るみに出た。 公安警察の捜査は、国内の過激派や外国のスパイを監視対象とし、テロなどの未然防止を目的とする。事件発生後に動く刑事警察に比べ、幹部の見立てに基づいて捜査する傾向が強い。 大川原化工機についても、中国の軍需企業とのつながりを疑う「外事容疑性」があるとの見立てだったが、それが裏付けられないまま逮捕に踏み切った。 警視庁の捜査結果を検証せずに起訴した東京地検の判断についても高裁判決は非難した。今回の事件では、逮捕された1人が、裁判所が認めた長期間にわたる勾留の末に死亡し、「人質司法」の問題も浮き彫りになった。警察、検察、裁判所の3者が現実に向き合わなければ、損ねた信頼を取り戻すことはできないだろう。【松本惇】