あの「ヨシオカ」が捕まった――。フィリピンの首都マニラに精通している日本人なら誰もが衝撃を覚えたに違いない。ヨシオカは現地の裏社会の″黒幕″として、20年以上も暗躍していたからだ。 ルソン島パンパンガ州アンヘレス市のリゾート施設――日本人犯罪組織『JPドラゴン』のリーダー・吉岡竜司容疑者は6月4日、そこで55歳の誕生日を迎えた。家族に囲まれたパーティーで盛り上がっていたところに、入国管理局の捜査員数人が突如としてなだれ込んできた。 「夜分に邪魔をしてすまない。子どもたちは席を外してほしい」 ’23年4月、警察官に成りすまして電話をかけ、キャッシュカードを盗むという特殊詐欺が発生した。吉岡は事件に指示役として関与したとして、福岡県警から窃盗容疑で逮捕状が出されていたのだ。 警察庁によると、昨年、日本で起きた特殊詐欺は約2万1000件で、前年から約2000件も増えている。被害総額は約719億円と約266億円も急増しており、件数とともにここ10年で最多である。 フィリピンを起点とした事件で記憶に新しいのは、’23年1月に発覚した広域強盗であろう。マニラにある入管収容所を拠点に、「ルフィ」などと名乗る指示役らが、ネット上で集めた日本国内の実行役に、通信アプリなどを使って指令を出し強盗を働いた事件だ。俗に言う「ルフィ強盗団」を裏で幇助していたとされるのが、吉岡率いるJPドラゴンだった。 吉岡を拘束した入国管理局幹部が語る。 「JPドラゴンは、ルフィ・グループとの繋がりが疑われていたため、以前からマークしていた。リーダーの吉岡はフィリピンに長く滞在し、タガログ語に堪能で、警察やその他捜査機関とのコネクションもある。拘束には慎重になる必要があったが、特に抵抗はされなかった」 吉岡は3年前、著名なフィリピン人芸人がMCを務めるユーチューブチャンネルにゲスト出演し、組織名の由来についてこう説明している。 「Jはジャパン、Pはフィリピンの頭文字。ドラゴンは私の名前『竜』から取った。私はフィリピンに20年以上住んでおり、闘鶏のビジネスをやっている。日本料理店も複数経営している」 実に流暢なタガログ語だった。撮影は吉岡の自宅で行われたとみられ、高価な壺や骨董品、高級ブランドの靴のコレクションも紹介された。吉岡の隣には、息子2人、そしてJPドラゴンのナンバー2とみられる福岡県出身のY(56)も同席していた。ナンバー3の小山智広(51)は、昨年1月にマニラで拘束され、日本へ強制送還された。小山は特殊詐欺に関与したとして窃盗罪に問われ、5月半ばに東京地裁で開かれた初公判で起訴内容を認めた。審理は現在も続いている。 (文中、一部敬称略) 水谷竹秀 ’75年、三重県生まれ。『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。『日刊まにら新聞』で記者として活動したあと、ウクライナ戦争など世界中で取材活動を行う 『FRIDAY』2025年7月11日号より 取材・文:水谷竹秀(ノンフィクションライター)