■香港の変貌:自由の終焉と中国化の進行 2019年から2020年にかけて、香港の街は激しい抗議デモと暴力の嵐に揺れた。民主派や若者たちが「一国二制度」の約束された自由と自治の維持を求めて立ち上がり、治安当局との衝突が続いた。だが、2025年の今、香港の風景は一変している。中国政府による国家安全維持法(国安法)の施行以降、反中国的な声はほぼ完全に封じ込められ、香港は急速に「中国化」の道を突き進んでいる。かつての自由な言論、活発な市民活動、そして国際都市としての独自性は影を潜め、香港は中国本土と同質の統治体制の下に組み込まれつつある。この変貌は、香港市民だけでなく、ある特定の地域の人々にとって深刻な警鐘となっている。それが台湾市民だ。 ■香港の現状:静寂の裏に潜む抑圧 現在の香港では、街頭での抗議活動や反政府的なスローガンは見られなくなった。国安法の施行により、言論の自由や集会の自由は厳しく制限され、違反者は迅速に逮捕される。民主派の政治家や活動家は投獄されるか、海外へ亡命するかを迫られた。その結果、多くの香港市民が自由を求めてカナダ、英国、オーストラリアなどへ移住し、香港の人口動態は大きく変化している。一方で、中国本土からの移住者が増加し、香港の文化や価値観はますます本土化している。たとえば、広東語の使用が減少し、標準中国語(普通話)が教育や公共の場で優先されるようになっている。これは、香港の独自性を薄め、中国本土との同化を加速させる政策の一環だ。 街を歩けば、かつてのエネルギッシュで多様な香港は見る影もない。監視カメラが至るところに設置され、市民は自己検閲を強いられている。ソーシャルメディアでの発言も慎重になり、「反中国」と見なされる内容は即座に当局の目に留まる。こうした状況は、香港が中国政府の完全な統制下に置かれたことを象徴している。だが、この「静寂」は自由の喪失と引き換えに得られたものだ。 ■台湾にとっての悪夢:香港の中国化が示す未来 香港の中国化を最も恐れているのは、間違いなく台湾市民だ。習近平国家主席は、台湾を中国の一部として「統一」する目標を繰り返し表明している。そのモデルケースとして、香港の「一国二制度」が参照されてきたが、香港の現状は台湾にとって最悪のシナリオを突きつける。香港で約束された「高度な自治」は事実上崩壊し、中国政府の直接的な統治が浸透した。この現実は、台湾が中国に取り込まれた場合、自由や民主主義が同様に失われることを示唆している。 台湾では、香港の状況を注視する声が高まっている。特に若い世代は、香港の抗議デモを支持し、自身も「ひまわり運動」などで民主主義を守る闘いを経験してきただけに、香港の中国化は他人事ではない。2020年の台湾総統選挙では、香港の抗議デモが蔡英文総統の再選を後押しした背景もある。台湾市民は、中国政府が「一国二制度」を台湾に適用しようとする意図を明確に認識しており、香港の現状は「中国化された台湾」の予行演習のように映る。 ■なぜ台湾が恐れるのか:中国の戦略と国際社会の反応 中国政府の香港統治は、台湾に対する明確なメッセージだ。習近平政権は、香港での成功を背景に、台湾への圧力を強めている。軍事的な示威行動に加え、経済的・外交的な締め付けも加速している。たとえば、台湾と国交を持つ国は中国の圧力で次々と減少しており、国際的な孤立を強いられている。一方で、香港の中国化は国際社会の反応の鈍さを露呈した。米国や欧州は香港の状況に懸念を表明したが、具体的な介入や制裁は限定的だった。この事実は、台湾が中国の圧力に直面した際、国際社会からの支援が期待しづらいことを示している。 台湾市民にとって、香港の中国化は単なる政治的な変化ではない。それは、自由、民主主義、自己決定権といった価値観が失われることへの恐怖だ。特に、香港の若者が自由を求めて戦った姿は、台湾の若者と重なる。香港の失敗は、台湾が同じ道を辿る可能性を示唆し、抵抗の必要性を一層強く意識させている。 ■未来への警鐘:香港と台湾の運命 香港の中国化は、単に一地域の変貌にとどまらない。それは、中国政府の統治モデルがどのように他地域に適用されるかの実験場であり、台湾はその次のターゲットだ。台湾市民は、香港の現状を目の当たりにし、自由と自治を守るための闘いが一層重要であることを痛感している。しかし、中国の圧力は増す一方で、国際社会の支援は不確実だ。香港の「完徹」は、台湾にとって悪夢の始まりではなく、抵抗の決意を固める契機となるかもしれない。 香港の中国化は、自由を愛するすべての人々への警告だ。台湾市民が最も恐れるこのシナリオを回避するためには、国内の団結と国際的な連帯が不可欠だ。香港の教訓は、自由は与えられるものではなく、守り抜くものだということを改めて教えてくれる。