世界中が見守る中、ロシアとアゼルバイジャンが公然と互いを非難し合い、国際政治力学の地殻変動が起きようとしている。それは、ロシア中部エカテリンブルクに住む、約50人のアゼルバイジャン人家族に対する警察の強制捜査が発端となった。アゼルバイジャンの報道によれば、一部の人々は逮捕され、拷問を受けたと訴えており、暴行を加えられ殺害された人もいるという。この事件は同国で激しい非難を呼び、文化行事が中止されたほか、アゼルバイジャン当局はロシア人記者を逮捕した。その後も報復的な逮捕や事件が相次いでいる。 両国はこの直前、昨年12月に発生したロシアの誤射によるものとされるアゼルバイジャン旅客機の墜落によって生じた亀裂を修復しかけたばかりだった。ロシア側は責任を否定し、アゼルバイジャン政府の怒りを増幅させた。 この新たな対立は何を予兆しているのだろうか? そして世界はなぜこの問題に関心を向けるべきなのだろうか? 最近の両国の行動について、米シンクタンク、ドイツ・マーシャル基金(GMF)は、「紛争の原因が隠れていることを示唆している」と指摘。ロシアがザンゲズル回廊から排除されたことを視野に入れ、両国間の地政学的対立の一部として捉えるべきだと説明した。この記事の読者なら「ザンゲズル回廊」という言葉をお聞きになったことがあるだろう。これは、中央アジアからロシア領土を迂回(うかい)し、トルコ経由で直接南下する貿易ルート構想だ。これにより、アゼルバイジャンと中央アジア諸国は、ロシアの経済支配からの解放を見込んでいる。 この文脈では、あらゆる動作や出来事が、より大きな意味合いを象徴するものとなる。アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領からの電話会談の申し出を断った一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領からの要請を受け入れた。 この一連の出来事の背景には、2023年に発生したナゴルノカラバフ(訳注:アゼルバイジャン領内でアルメニア系住民が多数を占める地域)を巡るアゼルバイジャンと隣国アルメニアの第二次紛争がある。1990年代に起きた第一次紛争ではアルメニア側が勝利したが、今回の第二次紛争ではアゼルバイジャン側に軍配が上がった。ロシアはアルメニア国内に軍事基地を置き、同国の安全を保障しているとしていたにもかかわらず、アゼルバイジャンが領土を奪還したのだ。ロシアの対応の遅れはアルメニアの反感を買っただけでなく、世界中に衝撃を与えた。 ところが、ロシア政府は巧みに立場を変え、アゼルバイジャンに対し、ザンゲズル回廊へのロシアの参加を提案した。別の解釈をすれば、ロシアがナゴルノカラバフ紛争でアゼルバイジャンの勝利を許したのは、その見返りとして利益の一部を期待していたとも考えられる。つまり、その利益とは、ロシアが事実上、中央アジアの貿易ルートと旧植民地に対する支配を回復することだ。