(CNN) 米アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画に携わった著名なパレスチナ人活動家が28日、占領下のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区で、イスラエル入植者による襲撃を受けて死亡した。地元記者や当局者が明らかにした。 死亡したのは、「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」のコンサルタントを務めたオデ・ハタリン氏。同作はイスラエル入植者や軍によるマサーフェル・ヤッタ地区への攻撃を描いた作品で、ハタリン氏が襲われたのも同地区内の集落だった。 イスラエル人入植者のイノン・レビ容疑者は現場で逮捕されたが、弁護士によると29日に自宅軟禁処分で釈放された。イスラエル警察は声明で、容疑者の名前は明かさなかったが、死亡につながる無謀な行為と銃器の違法な使用の疑いでイスラエル人を拘束したと発表した。 ハタリン氏が撃たれたことは、「ノー・アザー・ランド」の共同監督であるイスラエル人のユバル・アブラハム氏が最初に伝えた。アブラハム氏がSNS「X」に投稿した動画には、レビ容疑者が銃を複数回発砲しながらパレスチナ人村民と対峙(たいじ)する様子が映っている。CNNは映像の位置情報から現場の位置を特定した。 映像には、拳銃を手にブルドーザーの前に立つレビ容疑者が、村人と揉み合い、撮影している男性を押しのける様子が映っている。その後、レビ容疑者は横や空中に向けて発砲しはじめ、パレスチナ人に向かって歩き出す。村人たちはすぐに逃げ出していた。 発砲の標的は不明だが、CNNが入手した別の映像には、ハタリン氏とみられる人物が地面に倒れ、出血している様子が映っていた。 パレスチナ保健省はその後、ハタリン氏の死亡を発表した。 レビ容疑者は昨年、バイデン米政権および欧州連合(EU)から制裁対象とされたが、2025年1月にトランプ大統領が再び就任すると、米制裁リストから除外された。24年4月の制裁発表時、米国はレビ容疑者について、ヨルダン川西岸で恐怖の雰囲気を醸成する行為に従事する暴力的な過激派集団を定期的に率いていたと説明していた。レビ容疑者が率いた集団がパレスチナ人住民を襲撃し、「退去しなければさらなる暴力を加えると脅し、農地を焼き払い、財産を破壊した」という。 23年10月のイスラム組織ハマスによる攻撃以降、西岸地区では入植者による暴力行為が急増。国連によると、7月15日までに東エルサレムを含む西岸地区では、イスラエル軍や入植者により少なくとも964人のパレスチナ人が死亡した。 イスラエルでは入植者の政治的影響力が強く、パレスチナ人への暴力で逮捕されても不起訴で釈放されるケースが多い。 イスラエルが占領するヨルダン川西岸でのユダヤ人入植は国際法上、違法とされている。 「ノー・アザー・ランド」は、19年から23年にかけてのマサーフェル・ヤッタの破壊の様子を記録し、24年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。