贋作にだまされた美術館が特別展 科学分析結果や刑事らの見解を公開

高知県立美術館(高知市)が所蔵し、贋作(がんさく)と判断した油彩画「少女と白鳥」が、同館の特別展で公開されている。科学調査の結果など判断の経緯とともに展示し、美術品の真贋(しんがん)について考える材料も提示している。 作品は、ドイツ人画家ハインリヒ・カンペンドンク(1889~1957)の1919年の作とされ、同館が96年に1800万円で名古屋市の画廊から購入した。昨年6月、「伝説の贋作師」と呼ばれるドイツ出身の画家ヴォルフガング・ベルトラッキ氏による贋作の疑いが浮上。同館は今年3月、総合的に贋作と判断した。 特別展は「再考《少女と白鳥》 贋作を持つ美術館で贋作について考える」と題して、13日に始まった。 贋作と判断した重要な証拠の一つとして、制作年とされた19年ごろには一般的に流通していなかった青、緑、白の顔料が検出された科学分析の詳細を示した。このほか、美術や鑑定の専門家、過去にベルトラッキ氏を逮捕し有罪に導いたドイツ警察の刑事ら10人の見解なども紹介している。 あわせて、カンペンドンクと同時代にシャガールやクレーらが描いた同館所蔵の絵4点も展示。これらも科学分析し、顔料の成分や表現技法の特徴を解説している。 科学調査チームの中心を務め、今回の特別展も監修した田口かおり・京大准教授によると、顔料の検出は予想より時間がかかり、「かなり手ごわかった」という。「贋作を所蔵する館が展覧会という形で報告することは、高い意義がある」とし、「科学手法を通じて見えてきた同じ時代の画家たちの間を旅するように楽しんでほしい」と期待する。 塚本麻莉・主任学芸員は「贋作をきちんと公開し、調査結果を伝えるのとあわせて、『少女と白鳥』をきっかけに、美術史における贋作をより深く考えてもらおうと構成した」と話す。 公開初日の13日は、東京など県外からの来場者も目立った。浜松市の横田誓子さん(55)は、美術館の贋作への向き合い方に関心があったという。「美しいな」がこの絵を見た第一印象だった。「真贋を見極めるのは難しいと改めて感じた。絵の来歴も考えさせられ、絵の見方が変わると思う」 高知市の60代女性は田口准教授の講演を聴くために初日に訪れた。「ニュースで贋作と知った時は残念だったが、きれいな絵だった」と語った。 一方、同時期にベルトラッキ氏による贋作の疑いが浮上した徳島県立近代美術館所蔵の油彩画「自転車乗り」も、フランス人画家ジャン・メッツァンジェ作とされていたが、同館が調査を経て贋作と判断。今年5~6月に同様の報告を含めた展示が開催されていた。 高知県立美術館の安田篤生館長は「だまされたことを記録し続けるのは美術館としての責務。戒めにとどまらず、美術品の真贋をめぐる問題を皆さんと改めて共有したい」と語った。 特別展は10月19日まで(9月26日~10月3日を除く)。一般400円、大学生280円、高校生以下無料。(斉藤智子)

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