ストーカーの被害者が再三発したSOSをないがしろにし、救えたはずの命を守れなかった責任はあまりに重い。神奈川県警は解体的出直しが必要だ。 悲劇は各地で繰り返されてきた。神奈川県警に限らず、ストーカー対応を重視してこなかった警察官の意識改革こそ急がなければならない。 川崎市の20歳の女性が元交際相手の男から殺害された事件の対応を巡り、神奈川県警は検証結果を公表した。 危害が加えられる危険性・切迫性を過小評価した対応は不適切で、女性の安全を確保する機会を何度も逃し、捜査も遅れたと結論づけた。 ストーカー対応の組織体制が形骸化していた。相談を受けた警察署と本部、被害防止を担う生活安全部門と刑事部門の連携が不足し、機能不全に陥っていたという。本部長ら43人の大量処分は当然だ。 根底には、ストーカー犯罪を恋愛感情のもつれのように軽んじて捉えがちな意識がある。再発防止で何より重要なのは、相手への強い執着心や支配欲が急激に事態を悪化させる危うさを、全ての警察官が銘記することだ。 女性と家族は昨年6月から男による暴力やつきまとい被害を繰り返し警察に訴えていた。女性は12月に行方不明となり、今年4月に男の自宅から遺体で発見された。 最大の痛恨事は、12月20日ごろとされる殺害時期における警察署の対応だ。 女性は12月9~20日に9回も電話を入れ「逮捕してほしい」「自宅付近をうろついていて怖い」などと必死に訴えた。にもかかわらず、複数の署員は事態を軽視して適切な対応を怠った。 検証では、この時期に組織的な対応がなされていれば、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令を出し、被害者の安全を確保する措置を講じられた可能性があったと認めた。救える機会はあったはずだ。女性の無念、遺族の憤りは察するに余りある。 女性が暴行の被害届を取り下げ、復縁したと申し出たことで、11月に署長が対応終了を決めた。これにより、トラブルは解決したとの先入観が署内に広がったという。 ストーカーの被害者は報復を恐れ、適切に判断できないケースが多い。深層心理を理解せずに後手に回り、最悪の結果を招いたと言える。 1999年の桶川ストーカー殺人事件を受け、翌年にストーカー規制法が成立した。その後も規制強化を重ねてきたが、警察の不手際で被害者が殺害されるケースが後を絶たない。神奈川県では13年前にも警察署の不適切な対応が悲劇を生んでいる。 警察庁は今回、都道府県警に対し、司令塔となる幹部を本部に配置することなどを通達し、体制の強化を図る。全国のストーカー相談は年間約2万件で高止まりしている。「仏作って魂入れず」を繰り返してはならない。