ショーン・コクラン王室担当編集委員 イギリス王室のアンドリュー王子は17日、ヨーク公爵をはじめとする自分の称号を返上すると声明で発表した。王子は、チャールズ国王ならびにウィリアム皇太子と協議の上、称号返上を決定したという。 アンドリュー王子に対して、未成年女性への性的虐待で有罪とされた資産家ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)との関係をめぐる批判が高まり続ける中、王室に何かしらの対応を求める声が出ていた。 こうした状況で王子は今回、自ら称号を返上した。イギリス最古で最高位のガーター騎士団の一員としての資格も放棄した。 王子は声明で、「自分への告発を断固として否定する」と強調した。 「国王ならびに家族や親類と話し合った結果、私に対する告発が続いていることが、国王陛下および王室の活動の妨げになっているという結論に至った」とアンドリュー王子は声明で述べた。 「私はこれまで常にそうしてきたように、家族と国への義務を最優先することを決意した」、「自分が5年前に公務から退くと決めたことは、正しい判断だったと今も思っている」と王子は述べた上で、「国王陛下の同意のもと、私はさらに一歩進む必要があると私たちは感じています。今後は自分の称号および授与された勲位を使わないことにします。これまで述べてきたように、私は自分への告発を断固として否定します」と表明した。 アンドリュー王子は王子であることには変わりないが、母の故エリザベス女王から授けられたヨーク公爵の爵位は返上する。 王子はすでに「公務を担う王族」ではなくなっており、「殿下(His Royal Highness)」の称号は使えなくなっていた。公式な王室行事にも参加していない。今後の役割はさらに縮小されることになる。 元妻サラ・ファーガソン氏は「ヨーク公爵夫人」の称号を失うが、娘たちは引き続き「プリンセス」と呼ばれ続ける。 王子はウィンザーにあるロイヤル・ロッジに住み続ける見込み。ロイヤル・ロッジの使用については、個人で2078年までリース契約をしている。 ■ジュフリー氏の回顧録が近く死後出版 アンドリュー王子は近年、複数のスキャンダルに直面してきた。今年4月に自死したアメリカ人女性ヴァージニア・ジュフリー氏との関係や、資産に関する疑惑、さらには中国政府のためのスパイ行為が疑われている実業家との関係など、さまざま疑惑が取りざたされてきた。 エプスティーン元被告との関係については、いつの時点で本当に絶縁したのかなど、最近になってあらためて問われている。 2019年に行ったBBC報道番組「ニューズナイト」でのインタビューで王子は、2010年12月にニューヨークでエプスティーン元被告と一緒に撮影された後、すべての関係を断ったと述べていた。 しかし、2011年2月送信のメールが後に明らかになり、アンドリュー王子がエプスティーン元被告と私的に連絡を取り続けていたことが示された。その中には「お互いにしょっちゅう連絡し合って、近いうちにまた一緒に遊ぼう!」というメッセージのやり取りも含まれていた。 エプスティーン元被告は2019年8月、性的人身売買罪で裁判を待つ間、ニューヨークの拘置所で自殺した。2005年に14歳の少女の両親がフロリダ州で警察に通報したことを受け、元被告は2008年には、少女に対する性的虐待罪で起訴され、司法取引を通じて有罪判決を受けていた。2019年7月には性的人身売買容疑で逮捕・訴追された。 バッキンガム宮殿では、アンドリュー王子を取り巻くスキャンダルに対する不満が高まっていた。 ジュフリー氏が書き残した回顧録が間もなく出版される予定で、アンドリュー王子とジュフリー氏、エプスティーン元被告との関係が、いっそう注目されると予想されている。 ジュフリー氏は、性的人身取引で起訴された米富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(2019年に拘置所で死去)と共犯のギレイン・マックスウェル受刑者(2022年に人身売買などで禁錮刑判決)から受けた被害について、最も積極的に公に発言していた一人。17歳の時に二人によってヨーク公アンドリュー王子に売られ、マックスウェル受刑者のロンドンの自宅で性行為をさせられたと主張した。 アンドリュー王子はこれを強く否定。ジュフリーさんはアメリカで王子に対する民事訴訟を起こした。双方の弁護士は2022年2月、両者が「大枠で和解」したと発表した。 ジュフリー氏の回顧録ではロンドンに加えてさらに、ニューヨークにある元被告の自宅で1回、米領ヴァージン諸島で元被告が私有していた島で1回、アンドリュー王子と性的関係を持ったとされる場面が描かれている。 アンドリュー王子は、すべての告発を否定している。 ジュフリー氏の兄スカイ・ロバーツ氏はBBC「ニューズナイト」で、アンドリュー王子が称号を返上すると発表したのを知り、複雑な気持ちになったと話した。さらに、亡き妹はこの展開を「とても誇りに思う」はずだとも述べた。 「私たち家族は今日、たくさんの嬉し涙と悲しい涙を流しました。嬉しいのは、ある意味でヴァージニアの正当性が認められたからです」とロバーツ氏は話した。 「彼女が何年もかけて取り組んできたことが、今ようやく一定の正義につながりつつある」とも、ロバーツ氏は付け加えた。 ロバーツ氏はまたチャールズ国王に対して、「アンドリューから『王子』を取り上げることも検討してほしい」と呼びかけた。 同じくBBC「ニューズナイト」で、エプスティーン元被告による被害を訴えるヘイリー・ロブソン氏は「ほろ苦い瞬間」だと語った。 ロブソン氏は、ジュフリー氏が始めた「この闘いを、私たちが最後まで見届ける」と述べ、「自分が始めたことが今こうなっているのを、彼女がここにいて見られたら良かったのに」と付け加えた。 「(アンドリュー王子が)公務を退き、称号を剥奪されるのは、遅すぎるほどで、きわめて適切なことです。チャールズ国王はよくやった」とロブソン氏は述べた。 王子が親しくしていた人物が中国のスパイだったとされる問題で、昨年12月の英高等法院判決はその中国人をヤン・テンボ氏(別名クリス・ヤン)と名指しした。同月のクリスマスには王子は王室行事に参加しなかった。 王子の事務所は、ヤン氏と機密情報を話し合ったことは一切ないと述べている。ヤン氏はアンドリュー王子のビジネス活動で、側近として活動していた。 2022年にはトルコの女性資産家とその元ビジネス顧問との間の裁判で、王子の名前が繰り返し登場した。この裁判で王子に不正行為の疑いがかけられたわけではないが、複雑な財務取引の中で王子が金銭を受け取っていたことが明らかになった。王子は贈与として受け取っていた75万ポンドを、その女性に返還した。 (英語記事 Prince Andrew gives up his title as Duke of York)