暴力団排除の流れに一石? 妻名義のETCカード利用で逮捕の組長に無罪判決

暴力団排除(以下、暴排)の号令の下、暴力団組員の公共の場からの締め出しや逮捕という、取り締まり強化に一石を投じる判決が下った。内縁の妻名義のETCカードを利用したとして立件された暴力団組長に無罪判決が言い渡されたのだ。 ETCカード以外にも、携帯電話の契約やゴルフ場利用の際に、約款の反社条項に抵触しながらサービスを受けたとして警察に身柄を取られてきたヤクザたちが、こうした場に大手を振って舞い戻る日が来るのだろうか。 ■"処罰に値しないほど軽微" 大阪地裁は1月14日、事実婚の妻である女性名義のETCカードで高速道路を走行して不正に約千円の割引を受けたとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた六代目山口組直系団体の会長(57)と女性、運転手の組員計3人に対し、いずれも無罪判決を言い渡した。 判決理由では、ETCカードは使用時の本人確認が厳格ではない実情に照らし、「処罰に値するということはできない」と指摘された。司法記者が解説する。 「不起訴でもおかしくないほどの些末な事件でしたが、相手が山口組の直参ということで検察は起訴し、立証を尽くして懲役1年6月を求刑しました。しかし、裁判所はそもそも犯行の悪質性が極めて乏しく、罪に問うほどのことではないと判断した格好です。 ETCカードはクレジットカードと異なって親族内で使いまわすケースが多いし、サインが求められるわけではないので、今回の事件を詐欺と認定するには飛躍が過ぎるというのが本音でしょう」(司法記者) ■ETCは暴力団の死活問題 裁判所から処罰に値しないと判断されるほどの微罪事件だが、警察の捜査は念入りだった。 「会長が実質的にETCカードを使用していたことを立証するため、女性はその車両に同乗せず、会長だけが乗っていた状況を尾行や内偵を繰り返してカメラなどで一定期間撮影していたのです。被害者のいない事件でそこまで執念を燃やして捜査し、結果的に無罪だったわけですから、費用対効果が見合わない。 暴力団の関与が疑われる失踪事件や抗争事件での幹部への突き上げ捜査といった、ステージの高い事件にもっと注力するべきです」(前述司法記者) 山口組の直参においては、今回の会長以外にも2人が弟や実子といった家族名義のETCカードを利用したとして立件され、このうち若頭補佐の要職を務める秋良東力・秋良連合会会長(68)には、大阪地裁が昨年5月に懲役10月の有罪判決を言い渡し、大阪高裁も同年12月に控訴を棄却している。それぞれのケースに細かな差異はあれども、判断は裁判官でも隔たりがあるのが実情だ。暴力団事情に詳しいA氏が語る。 「暴力団、特に抗争状態にある山口組の幹部は警察の重要なターゲットだから、携帯電話の契約やゴルフ場の利用、スーパーのポイントカードの作成でもヤクザであることを偽ったことを理由に、被害者がいない軽微な事件でも逮捕してきた。今回の判決は、こうした捜査手法の行き過ぎに警鐘を鳴らすものでしょう。 山口組はETC利用にはこだわりがあって、系列組員がETCパソカを使わせないのは不合理な差別だとして高速道路会社と国を訴えている。いずれETCがないと高速を使えなくなるし、料金所の支払いで停車している間に襲撃される可能性もあり、幹部の間では重大な懸念事項のようで、今回の判決が追い風になることを望んでいることだと思います」(A氏) ■ゴルフ場からの締め出しも「刺青だから風呂を使わせたくないだけ」

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