刑事裁判の再審制度を見直す刑事訴訟法改正案が衆院で審議入りし、茨城県内の冤罪(えんざい)被害者の家族が議論の行方を見守っている。利根町で起きた布川事件で、再審無罪となった桜井昌司さん=2023年に76歳で死去=は、検察の抗告で再審開始に4年以上かかり、逮捕から冤罪を晴らすまで44年近くを費やした。妻の恵子さん(73)は「冤罪被害者の人生や人権を奪った反省が、国に全く見られない」と憤り、抗告の全面禁止と証拠の全面開示を訴える。 ■開かずの扉 再審は、「開かずの扉」に例えられるほどハードルが高い。最高裁の統計によると、23年は237人が再審を申し立て、開始が決まったのは2人のみ。請求棄却は223人と圧倒的に多く、残る12人は請求の取り下げや死亡などだった。 1967年に男性が殺害された布川事件。桜井さんは無期懲役で服役したが、仮釈放後の2005年に水戸地裁土浦支部が再審開始を決めた。しかし、検察による2度の抗告で、再審開始の確定までに4年以上を要した。 桜井さんの弁護人を務めた谷萩陽一弁護士は「やり直しの裁判で有罪を主張すればいいのに、有罪の維持に固執して再審を妨げる検察の姿勢が、冤罪の土壌だ」と指弾する。「冤罪被害者を裁判の間違いから迅速に救うため、検察抗告を禁じて証拠を広く公開する仕組みが必要」と語る。 ■例外を心配 検察の抗告を「原則禁止」とする改正案について、恵子さんは「検察の時間稼ぎが抑制される期待はあるが、例外を乱発しないか」と心配する。 改正案は、裁判所が検察に対して証拠を出すよう命じる仕組みを明記したが、全面開示にはなっていない。また、開示された証拠を、支援者やメディアなど第三者に提供することを禁じる罰則付き規定も盛り込んでいる。 日本弁護士連合会は、布川事件の再審請求で開示された、自白の信用性を揺るがす録音テープなどの新証拠が再審無罪の決め手だったと指摘。谷萩弁護士は「証拠を検証する動きを萎縮させ、無罪にするための正当な理由まで奪いかねない」と懸念する。 ■誰のためか 「再審の請求自体、先が見えない」「冤罪を晴らして一日も早く社会に復帰したい」。冤罪被害を訴える受刑者と手紙を交わす恵子さんは「彼らはおりの中で、息をのむように議論を見守っている」と話す。 国と県に損害賠償を求めた訴訟に勝った2年後に亡くなった夫に思いを巡らせ、「もっと早く無罪判決が出ていれば、人生の1時間、1カ月でも長い時間を普通のおじさんとして過ごせたのに」と唇をかむ。 恵子さんは「(政府案は)不十分だけど、理想にこだわって冤罪被害者の救済が遅れる方が問題」と複雑な胸中を明かす。受刑者の描いたひまわりの絵を見つめ、「誰のための再審制度見直しなのか。それだけは見誤らないでほしい」と願っている。 ★再審 刑事裁判の確定判決に重大な誤りがあった際に裁判をやり直すこと。有罪が確定した人や弁護人が新証拠を添えて裁判所に申し立て、非公開の請求審で開始決定が出て確定すると再審公判が始まる。検察の抗告で開始決定が覆ることもあり、審理を長期化させているとして批判が強まった。現行の刑事訴訟法では、再審請求の手続きに関するルールが乏しいとされ、証拠の開示が不十分で審理が長期化し、冤罪からの救済を遅らせているとの指摘もある。