業界の壁を越えた“ワンチーム”で活動する「日本オンライン詐欺対策アライアンス」(JASA)設立

一般社団法人トラスト&セーフティ協会(JTSA)は8月26日、「詐欺対策カンファレンス Japan 2026」を開催した。 同イベントでは、オンライン詐欺対策の協調プラットフォーム「日本オンライン詐欺対策アライアンス」(JASA:Japan Anti-Scam Alliance)の設立が発表されたほか、JASAに関連する企業や組織の取り組みについて紹介された。 ■ 業界の壁を越えた「ワンチーム」でオンライン詐欺対策 JASAは、中立・非営利の立場から、業界横断でオンライン詐欺対策を推進する協調プラットフォーム。JTSAが事務局を担当し、設立支援パートナーとしてグーグル合同会社(Google)とトレンドマイクロ株式会社が参加している。また、本記事公開時点で支援パートナーとして、Facebook Japan合同会社(Meta Platformsの日本法人)、OpenAI Japan合同会社、マッチ・グループ、TikTok Japanが参加している。 JTSAの金谷武明氏(代表理事)は、オンライン詐欺などの不正を行う側は、複数のサービスや業界を横断し、時には国境を越えて活発に活動していると指摘。対策する側も、企業や業界の枠を超えて活動する必要があるとし、JASAや詐欺対策カンファレンスが、具体的な取り組みや対策、連携につながることを期待すると語った。 続いて、JTSAの田中清隆氏(理事・事務局長)がJASAの活動について説明した。 田中氏によると、JASA設立の背景には、オンライン詐欺被害の急増があるという。警察庁の発表によると、2025年のSNS型投資・ロマンス詐欺を含む特殊詐欺の認知件数は4万3000件、被害額は約3257億円と過去最悪の数値となった。 「業界の壁を越えたワンチーム型オンライン詐欺対策アライアンス」をコンセプトに、国内外の専門団体や企業の知見を持ち寄って対策を練ることで、詐欺のキルチェーン(詐欺グループと被害者の接触から送金までの一連の流れ)を遮断することが目的だという。 主な活動内容として、次の5つが挙げられている。 ・詐欺対策インテリジェンスの共有 業界横断での被害傾向の把握、および Global Signal Exchange(GSE)などを活用した詐欺事例・シグナル共有の枠組みを構築する。 ・実務者ダイアログの定例化 参画団体・企業の枠を超え、最新手口や対策技術に関する実務者レベルの情報交換会を定期開催する。 ・官民連携 関連省庁との対話を通じ、実効的な対策を策定し推進する。 ・国際連携の強化 海外の最新手口の早期検知、および国際的な抑止力構築に向けた連携を行う。 ・共同啓発活動 消費者のデジタルリテラシー向上を目的としたキャンペーンを、業界横断で実施する。 同カンファレンスでは、国際的な詐欺対策の知見共有フォーラムのGlobal Anti-Scam Alliance(GASA)、詐欺シグナル共有の国際基盤のGlobal Signal Exchange(GSE)、金融犯罪対策の国際的なネットワークのGlobal Coalition to Fight Financial Crime(GCFFC)と、戦略的パートナーシップを締結したと発表された。 さらに、2026年3月に開催された「国連グローバル詐欺サミット」において、IT大手や関連企業11社が署名した国際的な自主的枠組みである「Industry Accord Against Online Scams & Fraud」(オンラインの詐欺および不正行為に対する業界協定)署名社とJASAの間で知見を交換することについても合意したという。 田中氏は、JASA設立までのスピードを緩めずに、業界で一丸となってオンライン詐欺対策を進めていきたいと語った。 ■ 巧妙化する詐欺には技術と教育で対抗 JASAの設立支援パートナーであるGoogleから、ローリー・リチャードソン氏(VP Trust & Safety)が登壇し、オンライン詐欺に対する同社の取り組みについて説明した。 リチャードソン氏は、生成AIを悪用したディープフェイクなどにより、オンライン詐欺がより巧妙になっているとし、自社のプラットフォーム内の安全対策だけでは不十分で、社会全体で連携した対策が必要になると指摘した。 Google広告では、不実表示に関するポリシーを改訂したほか、AIを活用した検出システムをさらに進化させることで、日本国内では2025年に約3億5900万件の不正な広告を削除し、約44万2000件の広告主アカウントを停止したという。また、Chromeにおいては、危険なウェブサイトにアクセスした場合に警告を表示しているほか、Gmailではフィッシングメールなどの不審なメールの99.9%以上をブロックしているという。 こうした技術面での対策のほか、ユーザーのオンライン詐欺に対する対応力を高めるための2つの取り組みについても紹介された。 1つ目として、詐欺被害に遭う心理的メカニズムや手口を安全な環境で体験・学習できる教育プログラム「Be Scam Ready」日本語版を立ち上げる。公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)を主要パートナーとして迎え、ローカライズを進めていくとしている。 2つ目として、日本の主要なシンクタンクや大学によるAI研究や対話を推進するため、Google.orgから220万ドル(約3.5億円)規模の「Digital Futures Fund」を提供する。取り組みの一環としてJTSAと協力し、最初の接触から金銭的損失に至るまでの「詐欺バリューチェーン」の共同研究を推進することで、政府や業界が実効性のある詐欺対策を導入するための共通基盤を提供するとしている。 ■ 「産業化」が進んだ詐欺にはAIで対抗する JASAの設立支援パートナーであるトレンドマイクロ株式会社から、大三川彰彦氏(取締役副社長)が登壇し、AIを悪用した詐欺について説明した。 同社の調査によると、消費者の90%以上が生成AIに期待と不安の両方を抱いている一方で、「AI詐欺を見破る自信がある」と回答した人は8.5%にとどまったという。 大三川氏は、ディープフェイクなどによる音声・顔の偽造の高度化、詐欺のプロセスの自動化、詐欺そのものをビジネスとする「Scam as a Service」など、攻撃側におけるAIの悪用が進み、詐欺の「産業化」が進んでいると指摘した。 AIに対抗するためには、AIを駆使して防御することが重要になるという。詐欺の入り口となる電話、メール、SMS、広告などをブロックし、攻撃側とつながらせないためのソリューションを今後も一生懸命提供するとしている。 加えて、詐欺対策では家族との連携も重要になるという。家族間での気づき合い・見守りを統合したソリューションの「Kaleida」(カレイダ)をリリースし、情報を家族間で共有することをサポートするとしている。 ■ 2025年の特殊詐欺被害は過去最悪に、国際電話のブロックを推奨 警察庁の菅潤一郎氏(長官官房参事官/匿名・流動型犯罪グループ対策担当)が登壇し、特殊詐欺被害の現状と対策について説明した。 かつては財産犯(財産権を侵害する犯罪、窃盗・詐欺など)の被害額の多くを窃盗が占めていたが、近年では詐欺が主流になっているという。2025年のデータでは4984億円の被害のうち、約8割にあたる4029億円を詐欺が占める。 また、2026年は前年以上のペースで特殊詐欺の被害が発生しており、1日あたり約10億円の被害となっているという。さらに、ターゲットは高齢者のみならず全年代に拡大しており、送金手段も、銀行窓口での阻止を避けるため、匿名性とスピードが確保できるインターネットバンキングや暗号資産への移行が顕著だと、菅氏は指摘した。 そうした中、政府は、特殊詐欺対策として「犯罪対策閣僚会議」でまとめられた内容をもとに、準備段階から送金に至るまでのキルチェーン全体での水際対策や、捜査体制の強化を推進している。 民間・国際捜査機関との連携による成功例として、日本サイバー犯罪対策センター(JC3)の分析情報をMicrosoft、警察庁、インド警察が共有し、インド現地で「テクニカルサポート詐欺」の被疑者6人を逮捕した事例が紹介された。 菅氏は、特殊詐欺の多くが国際電話を使用していると説明し、水際で止めることが最も重要になるとした。具体的な対策としては、国際電話を使う必要がない人は国際電話の利用休止手続きをすることや、詐欺の疑いがある番号からの電話を自動でブロック・警告する「警察庁推奨アプリ」を導入することを推奨した。

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