【追悼】「選挙の神様」藤川晋之助氏 元選対スタッフが明かす「2日に1度の透析治療」と人心掌握術

“選挙プランナー”として多くの議員を当選に導き、昨年の東京都知事選では前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(42)を支援して躍進を支えた藤川晋之助氏が、3月11日に亡くなった。享年71。 参謀を務めていた2022年「参議院選挙全国選挙区」で、私は運動員として藤川氏のもとで働き、その卓越した手腕を目の当たりにした。 そして驚くべきことに、藤川氏は2日間に1度の透析治療を受けながら選挙戦を戦い抜いていたのである。しかし、運動員の前では透析患者であることを微塵も感じさせず、自ら精力的に動き回っていた。 私がその行動力と活力の源について尋ねると、 「選挙になるとアドレナリンが出るんだよ」 と笑って答えていたが、実際には身体にエネルギーを与える錠剤を服用して身体を奮い立たせていたのだった。 当時からまるでアクセルとブレーキを同時に踏むような状況であったが、10年に及ぶ透析治療と激務によって、藤川氏の身体は限界を超えていたのは間違いない。 そんな藤川氏は、人心掌握の天才であった。 「人の心を動かさなければ、どんな戦略も無意味だ」 と語っていた彼は、選挙戦においてもその哲学を貫いていた。 その象徴ともいえるのが、彼が送っていたグループLINEのメッセージである。その文章は1回の投稿で50行~80行にも及ぶ長文で、スマートフォンで見ると450文字~720文字ものボリュームがあった。 ◆「9割方、落選する」からの逆転劇 驚くべきことに、その長文を透析する病床で一文字ずつタップしながら送信していたのだ。 さらに、1日に5回も6回も「指示」「指令」「藤川氏の考え」と題したLINEが届き、彼の鼓舞する言葉が運動員の士気を高める絶大な力を持っていた。 また、藤川氏は演説の達人でもあった。 私はこれまで50人以上の政治家の演説を聞いてきたが、藤川氏を超える演説を聞いたことがない。 彼の独特な語り口調と間の取り方には不思議な魅力があり、敵対する陣営の人間ですら 「藤川の話は聞いておきたい」 と思わせるほどの説得力を持っていた。 3年前の参議院選で、藤川氏と私が関わった候補は9割方、落選すると周りからもみられていた。そんな中、ある中心スタッフが彼の指示に従わず、動いていないことが分かった。しかも、そのスタッフが藤川氏を差し置いて、選挙を仕切ろうとし始めたのだ。 組織としては分裂の危機にあるなか、藤川氏は 「邪魔だから、この選対から出ていけ!」 と厳しい対応で、そのスタッフを追い出してしまった。 そのまま選対は空中分解してもおかしくなかったが、藤川氏のカリスマ的な演説とLINEの文章で、スタッフの心を一つにまとめ上げた。常に冷静でありながら情熱的、時に大胆でありながら計算高い。そんな彼の姿に、多くの人が惹きつけられていった。 そして、下馬評を覆し、応援した候補者は見事、当選したのだ。 そんな藤川氏と最期に会ったのは、今年の1月22日である。 「次回は2月21日に会おう」 と約束をしていたが、藤川氏は多忙を極めており、ようやく取り付けた日程であったが、2月19日に秘書から 「体調を崩し緊急入院した」 との連絡を受けた。 忙しさのために透析治療を怠ったこと。さらに足から菌が入ったことが原因だという。 藤川氏は私の大学の先輩である。会うたびに、彼は大学時代の武勇伝を語ってくれた。 大学3年時に退学し政治の世界に入り、25歳で衆議院議員の公設第二秘書を務め「選挙の神様」「選挙の鬼」とも称された。藤川氏は自ら13回の逮捕歴があると語っていた。 まさに選挙に生き、選挙に殉じた男であった――合掌。 取材・文:阿部 光利(元TVリポーター、政治ジャーナリスト)

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