道路を黄色に塗装→売春の客待ち9割減 警察署独自の女性支援策も

路上での売春の客待ち対策として、大阪・キタの住民や大阪府警が特定の道路を黄色に塗装したところ、客待ちが9割減った。目立つ場所にいづらくなる人間の心理を利用したものだが、対症療法的だとの指摘もある。警察署独自の女性支援策も進んでいる。 JR大阪駅から徒歩10分ほどの大阪市北区太融寺町。細い路地にホテルや飲食店が軒を連ねるこの一角に、昨春、スマホを眺めながら立ち並ぶ女性たちの姿があった。 地元の防犯協会支部長の藤野雅文さん(79)によると、売春の客待ちをする女性で、多いときには同時に10人以上が立つこともあったという。 このエリアは見通しが悪く、人目を避けてホテルに入れるという特徴があり、コロナ禍を機に急増した。住民の中には街の姿に嫌気がさし、転出する人もいたという。 管轄する曽根崎署はこの場所で客待ちをしたとして、一昨年の夏以降、売春防止法違反容疑で30人以上を逮捕・書類送検した。しかし客待ちは後を絶たず、署の北川龍・生活安全課長(当時)は「取り締まりだけでは限界。いたちごっこだった」と振り返る。 そこで考えられたのが、道路の塗装だった。 署はこれまで、街頭犯罪対策で警察庁科学警察研究所と連携しており、行動経済学の「ナッジ理論」の活用を同研究所から提案された。「そっと後押しをする」という意味で、心理的に働きかけて自発的な行動を促す方法だ。 署や地元住民は昨年12月、客待ちの多い道路約100メートルを黄色に塗った。路面を目立たせると立ちづらく感じる心理を利用したもので、地元の専門学生がデザインしたステッカーも路面に貼り付けた。 府警が1日4回調査した結果、塗装前の1週間は平均7.43人(最大17人)の客待ちがいたが、塗装後の1週間は0人。2カ月後の1週間は平均0.86人(同4人)と約9割減った。 ただ、地元住民からは「道を歩きやすくなった」と歓迎の声もあがるが、根本的な解決には至っていない。 府警によると、路上での売春の背景にあるのが借金苦だ。 署が摘発した女性のうち28人を調査すると、平均年齢は24.4歳で、6割以上が借金を抱えていた。ホストクラブへの支払いを理由に挙げた人も6割超。「生活が苦しい」「風俗店で働くより多く稼げる」などと説明する女性もいたという。 神戸大学大学院の原口剛教授(社会地理学)は、道路の塗装について「客待ち女性を『どう立ち去らせるか』を考えるアプローチは対症療法的。なぜそこに女性が立つのかを考える必要がある」と指摘する。 これまでも国際会議や五輪などの大規模イベントの際には、公園の野宿者といった立場の弱い人が都市から排除されてきた。原口教授は「大阪・関西万博を控えて行われた今回の客待ち対策も同様ではないか」と話す。 署は路上売春をする女性らへの立ち直り支援のため、昨春、行政の支援機関につなぐ取り組みを独自に始めた。摘発された女性が望んだ場合、捜査を終えた後、警察車両で自治体の支援窓口まで送り届けるというものだ。すでに、実施例もあるという。 署は「単なる摘発にとどまらず、女性が必要な支援を受けられる体制を整えるなど、一歩踏み込んだ対策を進めていきたい」としている。(近藤咲子) ■ホストクラブや借金、性暴力などに関する主な相談窓口 女性相談支援センター全国共通短縮ダイヤル #8778(一部地域を除く) 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891 警察相談専用電話 #9110 消費者ホットライン 188 日本司法支援センター(法テラス) 0570・078374

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