捜査・司法のアナログな手続きを効率化できる一方、事件と関係ない個人情報の収集が広がらないか。与野党で一部修正したが、なお懸念は拭えない。 オンラインでの逮捕状の取得をはじめ捜査や公判手続きをデジタル化する刑事訴訟法などの改正案が衆院で可決された。参院でさらに十分な歯止めに向けた議論を求めたい。 改正案は、逮捕や捜索に必要な令状の請求から執行までをオンラインで完結させる。裁判所に出向かなくても請求、発付された電子令状をタブレット端末で示すことで執行できる。家庭内暴力(DV)やストーカーの被害をはじめ、一刻を争う安全確保などで迅速な対応が期待される。 供述調書などの捜査書類もIT化する。法廷と離れた場所を映像と音声でつなぐビデオリンク方式の利用を、病気などで移動が困難な被告や証人にも広げる。紙と対面が原則の手続きを見直すことで、物理的な負担が軽減されるメリットは大きい。 焦点となったのは新設の「電磁的記録提供命令」だ。捜査機関が証拠収集のため、携帯電話の通話記録やメールなどの電子データの提出を通信事業者に命じ、正当な理由なく拒むと罰則が科される。 これまでデータ自体は押収できず、記録したUSBメモリーなどの媒体を差し押さえていたが、強力な捜査手段を得ることになる。 収集対象は裁判所の令状に基づくが、衆院審議では送受信した当事者の知らないところで押収が広がることに野党から懸念が噴出した。提供命令を口外しない事業者への秘密保持命令に、「1年以内」の期限を加える一部修正で、与野党の多くが折り合った。 それでも無関係の個人情報が「乱獲」される恐れは消えない。事後の不服申し立てで提供命令が取り消されても、収集情報は削除されないことも大いに疑問である。データの保管や廃棄の在り方にルール化が要る。 一部修正では、情報取得する範囲に留意するとの付則も加えたが、抽象的な上に条文ではない。歯止めには不安が残る。 一方、日弁連などが求める弁護士の「オンライン接見」について、付則で「政府が必要な取り組みを推進する」と記した。法務省は各警察のデジタル対応の遅れを理由に法制化を見送ったが、逮捕直後に法的助言を受けやすくなるよう、IT化の効果を広げることが求められよう。