神戸市北区で平成22年10月、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件で、殺人罪に問われ、1審神戸地裁で懲役18年の判決を受けた当時17歳の被告(32)の控訴審が25日から大阪高裁で始まる。将太さんの父、敏(さとし)さん(66)は「最後まで戦う」との決意を胸に意見陳述に臨む。 ペンとノートを肌身離さず持ち歩き、外出中も、就寝前に布団に入っているときも、浮かんだ言葉を書き留める。将太さんのために何を主張すればいいのか、なかなかまとまらない。「言いたいことはいっぱいあるねんけどね」。時には寝つけないほど、控訴審に向けて事件に向き合う日々を過ごしてきた。 事件は22年10月4日夜に発生。路上で女性と一緒にいた将太さんが突然、面識のない男に折りたたみ式ナイフで多数回刺され、死亡した。 11年に及ぶ逃亡生活を経て逮捕され、令和5年6月に1審の法廷に立った被告。刺したことは認めたものの、被告人質問では「知りません」「覚えていません」と繰り返した。敏さんが事件後、抱き続けた「なぜ将太が殺されなければならなかったのか。真実を包み隠さず話してほしい」という願いは届かなかった。 その中で一筋の光となったのは、懲役18年という量刑だった。 少年法では犯行時18歳未満の被告について「無期刑に相当する場合は有期刑を言い渡す」とする緩和規定がある。事件当時の少年法は、この無期刑相当の場合の「有期刑」の上限を15年と定めるが、検察側は少年法ではなく刑法の上限規定を根拠に懲役20年を求刑。地裁も「法律を正しく解釈すれば、上限が20年であることは明らか」と応じた。 司法が遺族の思いをくんでくれた-。事件後、大学の通信制で法律を勉強してきた敏さんは、前例のない法令適用の判断に驚いたという。 ただ関係者によると、被告側が控訴審で争点とするのはまさにこの点。有期刑の上限は、無期懲役相当の事件を起こせば少年法に基づき15年となる一方、有期刑相当の事件で刑法に基づき20年となるならば、事件の重さと量刑で逆転現象が生じるとして法令適用の誤りを指摘するとみられる。1審に続き、精神疾患による心神耗弱状態だったとも主張する。 敏さんは事件後、他の刑事裁判にも目を向けるようになった。量刑について、裁判所はさまざまな事情を踏まえて求刑より軽い刑を選択することが多く、被告を「どう許すか」を検討しているように感じているという。1審のように、遺族のために「どう罰するべきかを考えてほしい」。そんな思いで証言台に立つつもりだ。