『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)(以下、『ローグ・ワン』)へとつながる、銀河帝国と反乱同盟の4年間の情勢を情報将校キャシアン・アンドーの視点を中心に描くディズニープラスオリジナルドラマシリーズ「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2。ついにラストとなる第10話〜12話が配信され、心揺さぶるクライマックスを迎えた。 ディエゴ・ルナ演じるキャシアンを中心に彼に関わる人物たちを、反乱同盟の勃興と帝国への反乱の時期に合わせる形で様々な方向から描いてきた本作。なかでも予想外に注目されてきた人物と言えば、カイル・ソーラー演じるシリル・カーンだろう。シーズン2では、視聴者から「真面目過ぎて逆におもしろい」と評された彼が迎えるラストも描かれることになる。 ※本記事は、シーズン1およびシーズン2のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。 ■初登場時は小者の悪役かと思いきや…信念を突き通し続けたシーズン1 シリルは、シーズン1の第1話で帝国側の民間会社の保安監査チームに所属する副捜査官として登場し、キャシアンが関わった職員殺害事件を担当。上司たちが面倒ごとを嫌って事故として処理しようとするなか、命令を無視してキャシアンを追ったことで人生が一変してしまう。 本作において敵側から最初にキャシアンを注視した人物であり、そのわりに状況に翻弄される様は小者の悪役のようにしか見えなかった。惑星フェリックスで強行したキャシアンの逮捕には失敗し、失職。それでも自分の汚名をすすぐためにキャシアンを追うことを諦めず、彼の調査要請を重ねたことが、反乱ネットワークの拡大を図る“アクシス”を追う帝国軍保安局のデドラ・ミーロ(デニス・ゴフ)の目に止まった。取り調べが彼女と出会うきっかけとなったわけだが、ここから物語に関わる主要キャラとして存在を強める。デドラにとって有用な存在であり、自分がキャシアン捜索に役立てると信じたことで、最悪と思えた彼の運命も変化していく。 フェリックスでキャシアンの母の葬儀の最中に発生した暴動のなかで、自身の情報網で現地を訪れていたシリルは暴徒に襲われるデドラを救出し、デドラとの距離が縮まったように見えたところでシーズン1は終了していた。キャシアンという“悪役”を追って立身出世する姿は、角度を変えればシリルが主人公である物語が描けそうな形にまでなっていた。 ■「実はいい人を見るのはおもしろい」カイル・ソーラーが語る、シリル・カーンに惹きつけられる理由 2人の関係が気になる状況から始まるシーズン2では、真面目さが空回りし、不幸が連鎖していたシリルの状況が一気に好転。新たに就職した帝国標準局の燃料純度部で昇進し、さらにデドラとは母親に結婚を前提とした挨拶をするような関係となっていた。その後、シリルは帝国にとって重要な場所となる惑星ゴーマンの標準局支局長として赴任。その目的は、ゴーマンにおける反抗勢力と接触して情報を収集するという、デドラと、そして大きくは帝国の役に立つ隠密行動をすることにあった。 世の中に秩序をもたらしている帝国がシリルにとっては正義であり、帝国に役立つことが彼にとっての正しさの証明でもある。シーズン2では、デドラと距離が縮まったことで、まさにシリルの理想が成就したように物語が進んでいるのだ。帝国の在り方を正しいと信じ、キャシアンと敵対する立場にあるシリルだが、演じるソーラーはシリルの演技については次のように語っている。 「第二次世界大戦直前の1930年代に生きた人々について、自分なりに調べてみたんです。彼らは大義に振り回され、ファシズムに振り回された普通の人々でした。どのような理由であれ、心を動かされやすい人たちだったんです。僕はシリルを単なる悪人として扱いたいとはまったく思いませんでした。それではおもしろくないし、リアルではないと思ったんです。トニー(・ギルロイ)もそう思っていました。彼は現実に根ざした、物事があいまいな状況で活動する、実に多面的で、地に足の着いたキャラクターを書きます。間違った選択をするかもしれないけど、実はいい人を見るのはおもしろいんです。または、その逆もあります。だから、僕の頭の片隅にはそのことがありました。彼らのモラルは、ファシズムや帝国のようなものが悪であると考えることができないところまで侵食されていたんです」。 “実はいい人を見るのはおもしろい”。それは、まさにシリルが単なる悪役に見えないような演じ方の重大なポイントであったと言えるだろう。角度を変えれば帝国が中心の世界においては彼は真面目過ぎるくらいの善良な市民であり、そうした部分も重要視して演じるからこそシリルは憎みきれないキャラクターとして魅力を発しているのだ。 ■シリル・カーンとキャシアン・アンドーがついに相まみえる時、なにが起こるのか シーズン2では、そんなシリルの真面目さがいい方向へと進んでいくが、シーズン1からひとつだけ大きく欠けていたものが彼の運命を大きく変えていくことになる。それこそが、キャシアン・アンドーという人物の存在だ。シリルはキャシアンを追うことで人生が狂ったが、デドラとの出会いをきっかけにキャシアンと関わらなくなって状況が好転。では、再びシリルがキャシアンのことを思い出し、出会ってしまったらどうなってしまうのか?もちろん、すでにその答えはドラマの中では出てしまっている。シリルの迎える運命は、彼が視聴者に近い等身大の人物だからこその現実感と無情感がこみ上げてくるはずだ。鬱陶しい小者の悪役かと思っていた人物は、物語が進むと共に「できれば彼には幸せな結末を迎えてほしい」と思われるように変化していったからこそ、その結末は劇中でも屈指の衝撃的なシーンとなっている。 改めて振り返ると、シリルというキャラクターは、視聴者が「自分が帝国の統治下に置かれた世界に入った時、世界がどのように見えるのか?」という視点を残酷なほどリアルに投影したキャラクターだったと言える。特別な力や大きな才能を持たなかったシリルがいたからこそ、「スター・ウォーズ」の世界を通して帝国という独裁がもたらす影響や、その世界での正義の在り方や見え方を考えに想いを馳せることができた。一見すると無情感が強めな彼の人生は、だからこそより苦くて印象的な形で「キャシアン・アンドー」というドラマを我々の胸に刻み付けてくれたのではないだろうか。 文/石井誠