「彼らはいつも私にこう言っていた。『おまえは俺たちの妹で、いちばん年下だ。すごく大事に思ってる』と――。彼らはいろいろと美しい言葉をかけてくれて、私はそれを信じていた。これが私にとって最高の家族だと思っていた。けれど時が経つにつれて、それが真実ではなかったと気づいた」 ソルさん(仮名)がカルテルのために初めて人を殺したのは、12歳の時だった。最初は、他の子供たちと一緒に誘拐に手を染めた。それが拷問にエスカレートし、ついに人を殺した。カルテルに加わって数カ月、彼女は見張り役から急速に頭角を現した。 ロイターは子供の現役暗殺者10人、元暗殺者6人、カルテル幹部4人に取材を行った。カルテルが子供の暗殺者を集め、育成している実態が証言から浮かび上がった。メキシコの犯罪組織は、生活支援や人とのつながりを求める未成年者の欲求に付け込み、脆弱な環境にある子供たちに狙いを定めてリクルートしていると専門家は指摘する。 メキシコの犯罪組織は、生活支援や人とのつながりを求める未成年者の欲求に付け込み、脆弱な環境にある子供たちに狙いを定めてリクルートしていると専門家は指摘する。その見返りとして、カルテルは自分たちの思い通りに操れる兵士を得る。子供は逮捕・訴追されても、長期刑を科せられることはない。収監されたり、あるいは命を落としても、代わりはすぐに見つかる。 青少年問題に詳しい専門家は次のように話す。 メキシコ国立自治大学 ガブリエラ・ルイスさん 「こうした子供たちは使い捨ての存在だ。彼らの体と命は利用され、最終的に待ち受けるのは『死』だ」 カルテルが子供を雇う理由についてソルさんは「子供は大人よりも学習能力が高いと言われている。そのため子供を雇えば、武器の使い方や、麻薬の密売といった行為を偽装する手口などを、大人よりも早く身につけさせることができる」と話す。 ソルさんは現在、メキシコ中部のリハビリセンターで生活再建を目指している。彼女はカルテル時代に何人を殺したかは明かさなかった。彼女の弁護士によれば、16歳で誘拐の罪で逮捕・有罪判決を受け、3年半の少年拘禁を受けた。もし彼女が成人であれば、数十年の刑を受けていた可能性がある。 安全のため、ロイターは彼女の本名や所属していたカルテルの名を伏せている。彼女の証言の詳細を独自に検証することはできなかったが、リハビリセンターの担当医や彼女の弁護士は、その内容が正確であると考えている。 ロイターは、フェイスブックやTikTokを通じて現役のカルテルメンバーに接触した。多くはライフルを持った自分の写真を共有し、年齢は14歳から17歳だった。彼らの多くは親戚や友人に誘われ、何らかの組織に身を寄せたいという欲求からカルテルに入ったと語った。彼らはほとんどが暴力や薬物といった問題を抱えた家庭で育ち、その多くが自らもコカインやメタンフェタミンといった薬物中毒に陥っていた。 昨年発表された政府の報告書によれば、カルテルにリクルートされた青少年の70%は、命の危険を伴う極度の暴力が日常的に存在する環境で育った。報告書によると、6歳児が犯罪組織に加わった例もあるという。またビデオゲームやソーシャルメディアなどの技術を使って若年層を引き込む手法が増えていると指摘している。 組織犯罪の被害者である子供たちを支援する団体のドゥルセ・レアルさんは次のように話す。 「今日、技術の進歩とともに手口の巧妙化を目の当たりにしており、子供たちを引き込む犯罪組織の数は増え、対象となる子供の低年齢化が進んでいる。(中略)当団体はSNS上で勧誘が行われていることを踏まえ、調査手法の更新作業を進めている。その過程で、犯罪組織から接触を受けた、より幼い子供たちの存在が確認されることだろう」 米労働省国際労働問題局の推計によれば、メキシコの犯罪組織に加わった子供たちの数は約3万人。また援助団体は、組織からリクルートを受ける可能性がある弱い立場にいる子供たちは20万人に上るとしている。 メキシコのロペスオブラドール前大統領、シェインバウム現大統領のいずれの政権も、薬物や犯罪から子供たちを守ることを政策に掲げているが、ロイターの取材に応じた専門家15人はいずれも、目に見える成果は上がっていないと指摘した。また、すでに犯罪組織に取り込まれた子供たちを救うための具体的な方策が示されていないと口をそろえる。メキシコ政府は、ロイターのコメント要請に応じなかった。 ソルさんはいま、メキシコで新たな人生のスタートを切ろうとしている。法律の学位を取得するために勉強しているのだ。子供時代に経験した死と暴力の世界から離れ、安定した生活とキャリアを築きたいと考えている。 「私は『20歳まで生きられないかもしれない』と思っていた。でも私は20歳になった。ほら、私はまだここにいる」