盤石ではなかった地盤、つながった「汚職」事件 大分市入札妨害

大分市発注の造園業務を舞台に、複数の業者に指名競争入札の予定価格を漏えいした疑いで、現役の市議が逮捕された入札妨害事件。関係者の証言をたどると、市議と業者の癒着が、市役所も巻き込んだ「もたれ合い」を生んだ構図が浮かぶ。 ◇根強い談合体質 「20年前とかは、人が大勢いて仕事が少なかった。やけん、そういう風習が生まれたんだと思う」。大分市内のある造園業者は、業界内に根強い「談合体質」を打ち明ける。 市議だった山本卓矢容疑者(45)から、市発注の除草委託業務の情報を得たとして、社長が逮捕された「ヒロセ」(大分市)は、以前から市発注の業務を請け負う「老舗」。山本容疑者の再逮捕と同時に、新たに社長が逮捕された「新名緑化」(同)も市とは30年来の取引があり、毎年2~3件の業務を受注していた。 市にとってなじみの2社が不正に手を染めた背景にも、業界内の「もたれ合い」の構図があったとみられる。 関係者によれば、ヒロセに絡む事件があったとされる2024年5月13日の入札では、複数の業者間で受注調整が図られ、あらかじめ落札業者が決まっていた疑いがあるという。この時の入札に応札した造園業者も談合への関与は否定しつつ、「『ちょっと忙しいからやって』と業者間で調整することはある」と明かす。 ◇「リスクに見合わぬ受注金額」 一方で、山本容疑者に働きかけてまで入札情報を得た疑いについて、同業者は「リスクと受注金額が釣り合わない」と口をそろえる。民間の情報調査会社によると、ヒロセは24年5月期には1億4200万円を売り上げ、造園業者としては経営規模が大きく、市内に優良不動産も所有。新名緑化も中古車販売などの事業も手掛けていた。 ヒロセと新名緑化が立件された業務委託の受注金額は、1件当たり288万~399万円。同業者によれば、その程度の金額の場合、積算ソフトを使えば、予定価格から1割ほど安い金額で入札できる。 この業者は「特にヒロセさんは土地ももっちょるけん、造園業をやらなくても十分食っていける。何十万かのためにそんなことをする会社でもないのに」と首をかしげる。別の同業者も「予定価格はみんなできたら知りたいが、そこまでする金額だったのかとは思う。罪に問われることは分かっていたはずだ」と言う。 ◇若手のホープが一転 市役所に長年勤務する関係者は、造園業者が市議らを訪問する姿をしばしば目撃していた。「ナンバーワンはここ。ナンバーツーはあそこかな」。この関係者は市公園緑地課「御用達」とみる業者名を、当たり前のように挙げる。 山本容疑者も、業者の訪問を受ける市議の1人だった。自民党県議の秘書を経て、23年4月の市議補選で初当選。 同じ会派の先輩市議は「有権者の要望をしっかりと覚えていて、若手のホープだった」と評価する。ある支持者も「明るくて気が利いて、党内でも出世するのでは」と期待をかけていたという。 評判の一方で、選挙は盤石ではなかった。初の本戦となった今年2月の市議選では、下から3番目の得票数で辛うじて当選。次点で落選した候補との得票数差は、わずかに80票だった。 そんな地盤の弱さを補うためか、山本容疑者は地元の業者とのパイプを重視していたとみられる。ただ、その関係は業者側の請託を受けて、指名競争入札の情報を漏えいする「汚職」事件へとつながっていく。 県内政界に詳しいある関係者は「市議にとっては10票でも大きい。議員の中には業者と役所をつなぐのが仕事だと思っている人もいる」と冷ややかだ。同僚議員は「補選で通ってまだ2期目。『先輩』から業者を引き継いだのではないか」とみる。 ◇不当要求にあらがえぬ慣習 市の公共事業を巡っては、県警が今年2月にも、ごみ収集運搬業務委託の指名競争入札で予定価格を業者に漏らしたとして、当時の部長らを官製談合防止法違反の疑いなどで逮捕した。 大分地裁の公判では、部落解放同盟大分支部の支部長だった落札業者役員の不当要求に、市幹部らが長年応じていた慣習が明かされた。検察は「組織的に対処することが適切だった」と、市の責任についても言及した。 今回の入札妨害事件でも、山本容疑者が市職員に働きかけ、入札の予定価格を聞き出していたとされる。優位な立場を使って職員に不正を求める構図は、官製談合事件と重なる。一連の事件について、ある県警幹部は「市政に一石を投じることができた」と強調する。【岡田愛梨、山口泰輝】 ◇ ◇ 県警は18日、山本容疑者を公契約関係入札妨害容疑で送検した。

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