【既報関連】大手薬局チェーン「ウルトラファルマ」や家電量販大手「ファストショップ」の幹部が汚職容疑で逮捕された一連の捜査で、10億レ(約271億8千万円)規模の贈収賄スキャンダルの首謀者が逮捕された。その人物は、国内屈指のエリート校「航空技術研究所(ITA)」を首席で卒業した税務監査官で、サンパウロ州の財務システムを巧妙に掌握し、不正な税還付の見返りに賄賂を受け取っていた。企業側と行政側が結託した組織的な不正スキームの全貌が明らかになりつつあると14日付G1などが報じた。 12日に逮捕されたのは、サンパウロ州財務局の税務監査官アルトゥール・ゴメス・ダ・シルヴァ・ネト容疑者(47歳)だ。捜査関係者によれば、ネト容疑者はICMS(商品流通サービス税)の還付手続きを巡る全プロセスを掌握し、ウルトラファルマをはじめとする大手小売企業からの申請を不正に承認していた。これにより、本来認められる額を超える税還付が行われ、見返りとして多額の賄賂が支払われていた疑いが強まっている。 同捜査では、毎日大手テレビ局で自社CMに出演して有名なウルトラファルマ創業者のシジネイ・オリヴェイラ容疑者のほか、ファストショップの取締役マリオ・オタヴィオ・ゴメス容疑者も逮捕された。彼は企業側の代表として賄賂支払いに関与したと見られている。検察は、この事件が単発の不正ではなく、行政と民間企業が長期に及び組織的に結託した広範な贈収賄ネットワークであると指摘する。 同G1記事によれば、検察の尋問を受けた州財務局同僚らはネト容疑者のことを「優秀で非常に知的な職員」と口を揃えて評し、検察も「犯罪の天才」と評価した。 同容疑者は大学受験生向けの講演で、自分がどのようにしてブラジル最難関エリート校ITA、軍事工学研究所(IME)、サンパウロ大学(USP)医学部に合格したかを語っており、実際に進学したITAで航空工学学位を取得。航空力学・構造学科の科目で最も優秀な成績を収めた最終学年の学生に授与されるレネ・マリア・ヴァンダエレ教授賞も受賞していた。監査官として3万3781・06レアル(約92万円)の月給を受け取っていた。 捜査の端緒となったのは、ネト容疑者の母親キミオ・ミズカミ・ダ・シルヴァ氏(73歳)の異常な資産増加だった。決して高給ではない公立学校の元教員であるミズカミ氏は、21年時点で約41万レ(約1100万円)だった資産を、22年には4600万レ、さらに23年には20億レ(約543億円)にまで膨らませていた。検察は、この急激な資産増加が資金洗浄によるものだとみている。ネト容疑者に日系姓はないが、血筋から日系人と言える。 ミズカミ氏は、税務コンサルタント会社「スマート・タックス」の名義人であり、同社が贈収賄スキームの資金洗浄に使われていた疑いがある。ネト容疑者自身も同社の設立に関与していたが、2013年に表向きの経営からは退いている。 スマート・タックスは21年以降に業務を開始したとされているが、実体のないペーパーカンパニーであり、従業員も存在せず、登記上の本社はネト容疑者の自宅に置かれていた。その自宅からは、エメラルドのほか、現金約33万レアル、1万ドル、600ユーロなどが押収された。 ミズカミ氏は、巨額の資産増加について「暗号資産への投資による利益」と説明しているが、検察はその正当性に強い疑問を呈している。同氏はスマート・タックスの業務には関与しておらず、ネト容疑者のみが実質的に運営し、同社を介して賄賂を受け取っていたとされる。 サンパウロ州財務局は今回の事件を重く受け止め、内部調査を開始。検察と連携しながら、今後も再発防止策の徹底を図る意向を示している。一方、他の大手小売企業も同様の不正に関与している可能性があり、捜査は現在も継続中だ。 関係者の間では、今回の摘発が国家の税務システムの信頼性を回復し、制度全体の透明性を高める転機になるとの見方が強まっている。