元タレントの田代まさし氏が10年ぶりとなる著書「こころの処方箋」を出版し、19日夜に都内で開催した記念のトークイベントは立ち見も出る盛況となった。田代氏がよろず~ニュースの取材に対し、今回の出版に至った経緯や思い、今後の「夢」を語った。 田代氏は1980年代に音楽グループ「シャネルズ」「ラッツ&スター」のメンバーとしてヒット曲を連発。同年代後半から90年代にかけ、志村けんさんに笑いの才能を見いだされ、人気タレントとして〝マーシー〟の愛称で親しまれた。だが、2000年代以降は覚醒剤取締法違反などで複数回の逮捕・収監を繰り返した。 更生を目指して薬物依存と向き合い、15年には著書「マーシーの薬物リハビリ日記」を出版。芸能界復帰も模索したが、19年に覚醒剤所持で逮捕され、20年11月から福島刑務所で服役した。22年10月に出所後、現在はYouTube番組「MARCY'Sちゃんねる」をベースに活動し、薬物依存に関する講演などにも参加している。 その田代氏に新刊に込めた思い、前著との違いを聞いた。 「前回は啓発本みたいな形で『薬物はダメだ』ということを前面に出しながら、裏切ってしまった。福島刑務所で改めて人生を振り返った時、自分の周りにいた人や有名な人たちの言葉が自分の大きな力になっていると気づいた。俺のオフクロ、小学校の同級生だった脳外科医、ブルース・リー、マザー・テレサ、志村けんさん、高倉健さん…といった人たちの言葉を(当該人物の顔を描いた)直筆イラストと共に刑務所の中で書きためました。『僕はこの言葉で元気になりました』ということを、弱っている人たちに伝えられたら…という思いが発端です。心に届いた言葉を俺なりに伝えられたらと。周囲の皆さんと力を合わせて一冊の本になりました」 その一例として、田代氏はスペイン出身の画家、サルバトール・ダリの「僕はもうドラッグなどやらない。だって僕自身がドラッグなんだから。」という言葉を挙げ、「時計がグニャって溶けて木にぶら下がっていたりとか、変わった絵を描く人なんですけど、そこまで言えちゃう突き抜け方が心に響いた」と指摘した。 イベントには〝どん底〟にあっても寄り添った恩人が出演。米国の刑務所で服役後、虐待などに苦しむ子どもたちを支える社会活動に取り組むHOMIE KEI(ホーミー・ケイ)さん、今年3月に73歳で亡くなったロックンロールバンド「クールス」のリーダー・佐藤秀光さん(妻の佐藤香さんが代理出演)だ。 「長いお付き合いのあるケイさんの『覚悟とは諦めること』という意味の言葉も響いた。『諦める』覚悟によって次のステップに進めると。秀光さんが亡くなったのはショックでした。クールスに憧れてバンドを始めたわけだから。秀光さんに『俺の歌はへただし、お前もそんなにうまくないけど、気持ちを込めて歌ったら必ず伝わるはず』といった言葉をいただいて、もう一回歌ってみようと思った」 再び「歌」への意欲を示した。「昔のバンド仲間を集めて『ドゥーワップ』をもう一回、お客さんに聴いていただきたい。それが俺の『原点回帰』。ドゥーワップという昔の音楽は大切な原点であり、自分の人生に必要だと」。そう語る田代氏は「最終的な目標は鈴木雅之の横で立って歌うこと。それが夢です」と切実な思いを吐露した。 ラッツ&スターのリードボーカルであり、日本を代表するソウル・シンガーとなった鈴木とは高校の同級生。「高校時代の後半は自分の家じゃなくて、鈴木雅之の家から通っていた。彼のお母さんは俺の第2の母と思っているくらいの仲だったんです」。だが、夢の実現が困難であることは百も承知している。 「彼には立場があるし、周りが納得できるところに俺がいないと呼びづらいだろうし…。鈴木雅之が『いいよ、田代、来いよ』と言える状況にいなきゃダメだと。以前も焦ってダメになったんですけど、彼には『ゆっくりでいいから、お前が立ち直ってくるのを俺は待ってるから』と言われたことがあって、一歩ずつ、こうした活動を積み重ねて、『よく頑張ったな、俺の所に来て歌えよ』と言ってもらえる位置に行きたい」 今月11日に初孫となる男の子が生まれた。「この本を孫に残したい」という思いもあった。そして、31日には69歳の誕生日を迎える。 20世紀の「天国」から一転、21世紀には「地獄」を体験したが、その時代を〝黒歴史〟として〝なかったこと〟にはできない。田代氏は、「『心を入れ替えて、もう1回、新しく…』じゃなくて、過去のいいことも、悪いことも全部人生だから。その全てを受け入れて『大丈夫だよ』ということを報告してきたい」。60代ラストイヤーに向け、そう誓った。 (デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)