米国のトランプ大統領が主権国家であるベネズエラの現職の国家元首を武力で突如「連行」し、全世界を衝撃に陥れた。表面的には麻薬密売とテロ組織の清算を掲げているが、ベネズエラの莫大な石油資源の確保と、「ドンロー主義(Don-Roe Doctrine)」と命名された西半球における覇権の再確立という巨大な戦略的計算が下敷きになっていると分析されている。ベネズエラ産の原油に依存している中国をけん制するための動きだとの解釈も、説得力を得ている。 ■麻薬断罪は単なる大義名分 トランプ大統領は3日(現地時間)、フロリダのマール・ア・ラーゴの自宅で緊急記者会見を行い、今回の軍事作戦を「米国を中毒にさせる毒物に対する正当防衛」だと規定した。トランプ大統領はマドゥロ大統領のことを、麻薬密売組織「太陽のカルテル」を指揮する長だと述べつつ、数十万人の米国人を死に追いやった麻薬密売を裏で操っていたと主張した。そして、近ごろ米国内の社会的恐怖を助長しているベネズエラのギャング団「トレン・デ・アラグア」はマドゥロの指令を受けて動いていたと強調した。米法務省はマドゥロ夫妻を麻薬テロおよび武器密売の疑いで起訴し、法的正当性を与えた。 しかし、米国の情報機関さえ「マドゥロとギャング団の直接的な連携は証拠が希薄だ」と報告していること、フェンタニルの主原料が中国製であることを考慮すると、これらは侵攻のための口実に過ぎないと批判されている。 ニューヨーク・タイムズはこの日の社説で「ベネズエラは米国内の最近の過剰服用の流行を主導してきたフェンタニルやその他の麻薬の意味ある生産国ではなく、ベネズエラが生産するコカインは大半が欧州に流れている」として、「ホンジュラス大統領に在職中、広範に麻薬密売組織を動かしていたフアン・オルランド・エルナンデスを、トランプは先日赦免してもいる」と批判した。 ■結局は「石油のための戦争」 専門家は、今回の作戦の最も強い動機は「石油」だと語る。トランプ大統領は記者会見で「我々は本来持ってくるべきだった石油を取り戻した」と述べた。これは、1970年代の石油国有化と、2007年のチャベス政権による米国企業の資産の没収に対する「遅れた報復」だと解釈される。トランプ大統領は、米国の石油企業がベネズエラに再進出してインフラを再建し、莫大な利益を創出するだろうとも強調した。スティーブン・ミラー大統領次席補佐官は先日、「ベネズエラの石油産業は米国人の汗と創意力で作られたもの」だとして、「それを独裁者が没収したことは、米国の財産に対する最大規模の窃盗」だと主張している。 中国も重要な変数だ。中国はベネズエラに融資し、原油で返済させるというやり方で、安価な原油を確保してきた。中国の国家開発銀行(CDB)は2007年以来、ベネズエラに約600億ドルをこのやり方で融資してきた。ベネズエラ産の超重質油は精製が難しいため、安い。 中国はこうして物量を安定的に確保したうえでベネズエラの超重質油用の製油所を増やすことで、低価格と安定的な物量の確保という利益を享受してきた。ベネズエラは2025年11月現在で一日に約92万1千バレルを輸出しており、その80%に当たる約74万6千バレルが中国に対するもの。中国の山東半島に位置する製油所はベネズエラ産の重質油に特化した設備を備えているため、他の産油国の軽質油では運用効率が大きく低下する。米国にベネズエラ産原油の供給網を揺さぶられると、中国は製油所の稼働率の低下、より高い代替原油の調達などで、かなりのコストとリスクを負わなければならない。 ■トランプ式の「ドンロー・ドクトリン」 今回の作戦は、第2期トランプ政権が宣言した「ドンロー主義」の実戦版だ。19世紀のモンロー主義を独自に再定義したこの戦略は、西半球において米国の排他的支配権を再確立するという目標を含んでいる。2025年の国家安全保障戦略(NSS)に明示された「トランプ・コロラリー」の実現でもある。中南米への軍事力の再配備、反米政権の追放、移民の強制送還などを骨子とするこの戦略は、主権国家に対する武力介入を正当化する。 背景には国内政治もある。支持率の低迷、未成年性搾取犯ジェフリー・エプスタインをめぐるスキャンダルの拡大、経済的不満の高まりなどの中、「海外の独裁者の逮捕」というイベントは、伝統的に局面打開のカードとして利用されてきた。 ワシントン/キム・ウォンチョル特派員 (お問い合わせ [email protected] )