「親分が入ります!」 昨年12月中旬、大勢の六代目山口組組員が出迎えるなか、姿を現したのは司忍組長(82)だ。この日は静岡県浜松市にある二次団体の本部で、六代目山口組の納会が行われていた。全直参が参加するなか、’25年の組指針には9年連続となる「和親合一」が掲げられた。そこには長期化する分裂抗争終結への、司組長の強い決意が見え隠れする。実際に、会場に現れた司組長の真剣な表情からは、覚悟の色が見てとれた――。 ’15年8月から続く「山口組分裂抗争」の最前線では、昨年も多くの血が流れた。抗争事案はすでに100件を超え、六代目山口組・神戸山口組の両陣営の死傷者数も50人を超えている。 下の年表を見て欲しい。ここでは’24年に発生した7つの重大事変についてまとめている。抗争が長期化するにつれ、戦線は混迷を極めている。六代目山口組は現在、分裂抗争中の神戸山口組のほか、そこから独立した絆會(きずなかい)、池田組の3団体と特定抗争指定を受けている。暴力団事情に精通するジャーナリスト・溝口敦氏が、昨年の印象的な出来事を振り返る。 「昨年2月に起きた絆會の金澤成樹若頭の逮捕は一つの転機となりました。金澤若頭は’23年4月、六代目山口組の中核組織『弘道会』傘下組織の組長の殺害容疑がかけられている“ヒットマン”で、六代目山口組の脅威の一人でした。 不安要素がなくなった一方、10月31日には六代目山口組傘下『山健組』の中田浩司組長に無罪判決が下された。中田組長は、’19年に自ら拳銃片手に敵対組織の組員を襲撃する事件を起こした疑いで裁判中でした。中田組長がシャバに出てきたことで、山健組組員の士気は少なからず上がっているはずです」 山健組といえば渡世では知らぬものがいない名門ヤクザ。敵対組織が衰退するなか、六代目山口組は有力者が陣営に戻ってきたことで勢いを増しつつある。 昨年は銃殺事件も2件発生した。1月には愛媛県内のスターバックスで、池田組若頭が六代目傘下組織にも所属歴のある40代男性を射殺。白昼堂々の惨劇は、日本中を震撼させた。 さらに9月には宮崎県内で緻密な計画に基づく銃撃事件が発生した。 「司組長や高山清司若頭(77)の出身母体である弘道会系の60代組員が、池田組傘下組織事務所にて発砲。幹部一人を殺害しました。60代組員は宅配業者に変装して事務所に近づくなど周到に準備をしており、高い計画性が窺(うかが)えます。 これは’23年に絆會の金澤若頭が起こした弘道会傘下組織組長射殺事件の報復と見られています。池田組はカネを払い、犯行を絆會に依頼したとされ、その仕返しとして池田組を襲撃したようです」(山口組事情に詳しいジャーナリスト) 血みどろの戦いが続いた’24年を経て、六代目山口組にとって重要な1年が幕を開けた。8月には分裂抗争発生から丸10年となるだけでなく、司組長体制が発足してから20年となるのだ。 ◆入り乱れるキーマンの思惑 節目の1年に何が起きるのか――。溝口氏は「抗争を終わらせる時がきた」と分析する。 「日本暴力団史上でも初となる10年という長期戦。これは何としてでも終結させなければいけない。山口組は’70年代後半に起きた『大阪戦争』の際、敵対組織のギブアップなく、一方的にメディアを呼んで記者会見を開き、強引に終戦に持ち込んだことがあります。今回も同じ手法が考えられる。今年中に抗争終結を宣言する可能性はあると思います」 実際に司組長や高山若頭は、終戦を前提に思惑を巡らせているという。 「高山若頭には、司組長と自身の出身母体の弘道会の支配をさらに強め、そのうえで山口組の威光を次世代につなぐという強い思いがあるはず。機が来れば自身は最高顧問などの役職に就き、若頭を現弘道会会長の竹内照明若頭補佐(64)に譲ることも考えられます。そうすることで、司組長体制を継続・強化し、信頼できる人物に七代目を託すべく動いている。 昨年は、その思惑が垣間見える人事もあった。自身の秘書役である人物を若頭補佐に昇格させたのです。狙いはもちろん地盤固めでしょう。また、司組長は年末に開かれた餅つき大会でも健在ぶりをメディアの前に示しています。雲上人であり″終身組長″である司組長の意を汲む形で、高山若頭は六代目体制の継続に尽力していくのではないでしょうか」(前出・ジャーナリスト) ほかにも二次団体に総裁制を導入し新たな組長を誕生させるなど積極的に組織改編を進める六代目山口組。対照的に、沈黙を続けているのは神戸山口組の井上組長だ。元山口組系暴力団の会長で、現在はNPO法人の代表を務める竹垣悟氏は、その胸の内をこう推察する。 「2年ほど前に電話で井上組長と話したが、声は元気そのものだった。持病こそあれど、いまも健康体と聞いとる。しかし、だからといって戦う意思はない。もちろん降伏の意思もない。井上組長からしたら、降伏すれば今まで付いてきた組員から裏切り者として攻撃される。あと、抗争中の現在は自宅を警備してくれている警察の庇護からも漏れてしまう。進むも地獄、戻るも地獄。井上組長自身、進退を決めかねているんやろ」 ◆最終局面で大暴発はあるのか それでも、神戸山口組の衰退に歯止めは掛からない。昨年10月31日には、古参幹部の一人が引退。これをもって、神戸山口組の幹部は0人となった。この日は奇しくも中田組長が釈放され、六代目山口組に迎え入れられた日と同じ日だった。 「両陣営の戦力差は明白です。昨年3月に警察庁が発表したデータによると、六代目山口組の構成員が約3500人と言われる一方、神戸山口組はわずか140人。実際にはすでに100人を切っているとも言われています。大勢は決しつつあると言えます」(全国紙社会部記者) 現実味を増す終幕のとき。溝口氏が語るように、その方法は一方的な終結宣言となるのか。前出の竹垣氏は、「現時点では大規模な武力行使はないだろう」としながらも、最終局面でさらに血が流れる可能性は捨てきれないと見る。 「いまでも神戸山口組やほかの敵対組織に潜って、襲撃のタイミングを狙っている六代目山口組組員はおる。抗争である以上、命(タマ)を狙うというのがヤクザというものなんや。渡世は生き物。絶えず動いとる。一寸先は闇で、何が起きても不思議はないんや」 拍車をかけるように、昨年12月24日に全国の警察幹部を集めた会議で警察庁・露木康浩長官が「組織犯罪対策は暴力団からトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)の取り締まりにシフトする」という旨の発言をした。溝口氏は「当局から暴力団への締め付けが弱まることは、抗争を左右する大きな要素になる」と警戒を強める。前出のジャーナリストも続く。 「六代目山口組の最終目標が神戸山口組の解体であることは変わっていない。そのためには井上組長の命(タマ)か引退が必須。六代目山口組からしたら、その方法は何も無血開城だけではない。最後に大きな動きがあっても不思議はありません」 多くの犠牲を払い、ついに終戦が迫りつつある山口組分裂抗争。両陣営を取り巻く緊迫感は、日に日に高まっている。 『FRIDAY』2025年1月24・31日合併号より