社説:米のICC制裁 日本は毅然と反対示せ

「法の支配」を脅かす米国の横暴に対し、日本は毅然(きぜん)とした態度で異議を唱え、正すべきだ。 トランプ米大統領が、国際刑事裁判所(ICC)の職員らに制裁を科す大統領令を発した。パレスチナ自治区ガザへの攻撃を巡り、イスラエルのネタニヤフ首相らに戦争犯罪容疑で逮捕状を出したことへの報復であることは明らかだ。 英国やフランス、カナダなど加盟80カ国は「国際的な法の支配を脅かすものだ」と米国を批判し、ICCへの支持を確認する声明を出した。 ところが、ICCへの最大の資金拠出国であり、トップの赤根智子所長を送っている日本政府は参加していない。どうしたことか。 日米首脳会談前に波風を避けたようだが、石破茂首相は帰国後の国会でも「今後の動向を注視する」との及び腰で、嘆かわしい。 同盟国であれ、国際秩序と正義への攻撃に口をつぐんでは、日本の信用失墜を招く。 大統領令は、米国やイスラエルなどの捜査に関わったICC職員や家族の米国内の資産を凍結し、米国への入国ビザ発給も制限する。関係者が幅広く対象になりかねない。組織ごと葬り去ろうとする敵意すらうかがえる。 ICCは、1990年代の旧ユーゴスラビア紛争やアフリカ・ルワンダでの民族対立による虐殺の責任が問題となる中で、2002年に設立された。 集団虐殺などの犯罪を犯した個人を訴追、処罰する独立機関が設立された背景には、法の支配に基づく秩序を望む国際世論の高まりがあった。 米国やイスラエル、ロシアは加盟していないが、2023年のロシアのプーチン大統領に対する戦争犯罪容疑の逮捕状には、当時のバイデン政権も支持を表明していた。 ネタニヤフ氏への逮捕状については昨年6月と先月、親イスラエルの共和党を中心に米下院が制裁法案を可決したが、上院は否決していた。議会の判断も覆してのトランプ氏の姿勢は容認しがたい。 赤根氏は米側の制裁に対し「判断の独立性と公平性を損なう。断固拒否する」との決意を示した。 虐殺などへの「不処罰」を許さないICCの存在は、世界各地の権力者による人道犯罪を未然に抑止する役割を果たしている。 日本と国際社会が結束してICCの立場を決然と擁護し、活動継続に向けて具体的な行動を取る必要がある。

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