■理事長には大きな権限が与えられていた 東京女子医科大学(東京都新宿区)の理事長を昨年夏に解任された岩本絹子容疑者(78)が逮捕された。新校舎建設を巡って大学から1級建築士に業務の実態がないのに約1億2000万円のアドバイザー報酬を支払い、大学に損害を与えた背任の容疑だ。その資金が岩本容疑者に環流していたことも疑われている。2021年に現職のまま逮捕された日本大学の田中英寿理事長(脱税で有罪確定。故人)のケースでも、附属病院建て替え工事を巡る金銭授受が行われており、それに極めて似た構図と言える。 なぜこれほどまでに私立大学で不祥事が続くのか。2025年4月に施行される改正私学法は、学校法人のガバナンス強化が大きな狙いだが、この法改正によって理事長の暴走はなくなり、学校法人の経営に規律が働くようになるのだろうか。 「創業家との決別という意味では、岩本容疑者の逮捕は悪いことではないと思います」 東洋経済オンラインのインタビューに応じた東京女子医大の山中寿学長はこう語っている。記事のタイトルには「女帝逮捕」と書かれ、岩本容疑者にいかに権力が集中していたかが批判の的になっている。 私学法ではこれまで、私立大学を経営する学校法人の理事長に大きな権限を与えてきた。理事長が理事会を通じて全権を握り、職員人事や事業計画や予算の策定、その執行に圧倒的な権限をふるってきた。こうした強権を持った理事長が時に暴走し、不祥事が発覚、刑事事件になってきたのだ。 ■「創業家との決別」が重要な理由 ガバナンスの強化が求められてきた上場企業などでは監督機能と執行機能の分離など、社長に対する牽制機能の強化が進んできた。また、公益法人の場合、執行に当たる理事会と、監督権限を握る評議員会の機能を明確化して、理事長や理事会への牽制機能を働かせようとしてきた。もちろん、それでも不祥事は起きているが、ことガバナンスに関する限り、学校法人は株式会社や公益法人から大きく劣後している。理事長の暴走を止める仕組みがなかったと言っても過言ではなく、それが不祥事がなくならない最大の理由だと言える。 学校法人の最大の問題は、経営の責任者である理事長をどう選ぶかというルールが緩いことだ。新学長が「創業家との決別」と言っている背景は、それが東京女子医大で岩本容疑者が「女帝」になった最大の理由だったという意味だろう。記事にはこう書かれている。 「岩本容疑者は女子医大を卒業後、自ら経営する産婦人科クリニックで診療に当たっており、大学での研究や教育の実績はほとんどない。いわゆる町医者の岩本容疑者が理事長になれたのは、創立者・吉岡彌生(やよい)の血族だったからだ。今回の逮捕で、女子医大の世襲制に終止符を打つという」 創業家との決別が大きな意味を持つというのだ。