参院選の応援演説中に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、殺人などの罪で起訴された山上徹也被告の裁判員裁判が、きょうから奈良地裁で始まる。判決は来年1月の予定だ。 事件を契機に宗教団体と自民党との深い関わりや、信者の子が困窮や孤立に苦しむ「宗教2世」の問題が浮かび上がった。いかに元首相へのテロに至ったのか。本人が語る動機に向き合い、社会に大きな衝撃を与えた事件の真相解明につなげたい。 事件から3年余り、弁護側は殺人罪の起訴内容を認めており、被告の母親による「宗教的虐待」が影響したとして情状酌量を求める方針という。量刑が最大の焦点となる。 被告の母親は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に総額約1億円の献金を続け、きょうだいは困窮を極めた。被告は教団への恨みを募らせ、つながりがあると考えた安倍氏を狙ったとされる。 弁護側の証人として、母親や妹、拘置所で被告と面会した宗教学者ら5人が出廷する。安倍氏と教団の関係の深さも証言するとみられる。 一方、検察側は厳しい家庭環境などを過度に考慮すべきではないと主張しており、結果の重大性や犯行の悪質性を重視して立証を進めるとされる。 裁判を通し、動機や背景を掘り下げ、教団活動や家庭崩壊の関わりを明らかにする意義は大きい。 事件が問うた課題は多い。 家計維持を困難にする寄付が問題となり、規制強化する不当寄付勧誘防止法なども成立したが、2世らの救済策は不十分との指摘は強い。 高額献金被害などの訴えが相次いだのを受け、教団は3月、東京地裁から解散命令を受けた。即時抗告し、高裁で審理が続いている。 安倍氏ら歴代首相をはじめ、自民と教団の関係は十分解明されておらず、数々の献金トラブルや反社会的な行為など被害を助長したとされる責任もうやむやのままである。 事件後、自民は内部調査で、所属議員の約半数近くが教団と何らかの接点があったと公表、「関係を絶つ」と表明した。 だが、その後も親密さを示す新たな証拠が示され、選挙運動や組織票など支援の見返りに、同性婚合法化への慎重な対応など、教団側が掲げる政策を推進する「推薦確認書」を交わした議員らも判明した。 そうした議員らが高市早苗政権でも要職に起用されている。 韓国では教団トップの韓鶴子(ハンハクチャ)総裁が前政権側に便宜を図ってもらう目的で金品を提供した容疑で逮捕、起訴され、政界工作にメスが入れられている。 日本の教団の問題を放置し、被害を拡大させてきた政治の責任は重い。さらなる調査と関係の清算が不可欠だ。