【香港時事】香港でスパイ行為などを取り締まる国家安全条例が施行されてから23日で1年。 香港では社会統制が強まり、言論の自由などは一段と狭まりつつある。「高度な自治」を認める「一国二制度」の形骸化が進む中、社会・経済活動の萎縮を懸念する声が内外で根強い。 香港では2019年の大規模な反政府デモを受け、20年に中国主導で国家安全維持法(国安法)が施行された。国安条例は同法を補完し、「抜け穴をふさぐ」役割があると見なされている。スパイ行為や外国勢力の干渉、扇動などを犯罪として明記しており、最高刑は終身刑。多くの条項は日本など海外での行為も対象となる。 香港警察は昨年5月、国安条例違反容疑で男女6人を逮捕。同条例による逮捕は初めてで、中国で民主化運動が武力弾圧された1989年の「天安門事件」の追悼に関するSNS投稿が扇動的と判断された。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、国安条例違反容疑でこれまでに16人が逮捕されている。 日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所などが香港の日系企業を対象に今年1月実施した調査によれば、国安条例を懸念している企業は約4割。理由は「情報に制限がかかる」「香港の『法の支配』『司法の独立』が失われる」恐れがあるとの回答が多かった。 こうした中、世論調査機関「香港民意研究所」は2月、定期的な追跡調査など自費による全ての研究活動を無期限で停止すると発表。同研究所は香港人の帰属意識や天安門事件の評価に関する調査を行ってきたが、英国に渡った元幹部の鍾剣華氏が香港警察に指名手配され、鍾庭耀主席らが取り調べを受けるなど当局の圧力が強まっている。 「表現の自由はかつてないほど大きな攻撃を受けている」。アムネスティは国安条例について「過去1年間、反対意見の組織的弾圧という『新常態』を定着させるために利用され、平和的な行為を不条理な方法で犯罪化してきた」と批判した。