「SUPER EIGHT」のメンバーで、アーティストとしても活躍する丸山隆平が「泥棒役者」以来8年ぶりの主役を演じる『金子差入店』が5月16日(金)公開となる。刑務所や拘置所への差入を代行する「差入屋」を営む男と、その家族の絆を描いたヒューマンサスペンス。監督・脚本を「東京リベンジャーズ」などの助監督を務めてきた古川豪が手掛け、構想から完成まで11年の歳月をかけた長編初監督作品だ。共演には、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、北村匠海、村川絵梨、甲本雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰ら豪華キャストたちが顔を揃えている。 本作で丸山は、世間ではあまり聞き慣れない「差入屋」を営むまっすぐで不器用な金子真司役を熱演している。「40代としての覚悟と責任感を持って取り組んだ」と語る俳優・丸山の、音楽活動で見せる顔とはまた違った一面を見ることができる本作について、役へのアプローチやこだわり、制作の裏側などたっぷりと語ってもらった。 刑務所や拘置所に収容された人への“差入”には、厳しい審査や検閲がある。そんなルールを熟知し、差入を代行するのが「差入屋」だ。金子真司は妻と共に家族で差入店を営んでいた。ある日、息子の幼馴染の少女が殺害される凄惨な事件が発生。事件にショックを受ける金子一家だったが、逮捕された犯人の母親から差入の依頼を受けることに…。差入屋として犯人と向き合いながらも、日に日に疑問と怒りが募るなか、金子は毎日のように拘置所を訪れる女子高生と出会う。彼女はなぜか自分の母親を殺した男との面会を求めていた。2つの事件の謎と向き合ううちに、金子の過去が明らかになり、家族の絆を揺るがしてゆく。 ■「複雑な想いやメッセージ性の入り組んだ作品に参加させていただけて、とても光栄」 ──金子真司役のオファーが来た当初の気持ちは? 「真司をシンプルに捉えると、社会に反したことのある人間という部分もありますが、物語をひも解いていくとそこには彼の性質や理由が隠されています。これまで僕はエンタメ系の作品に出演する機会が多かったんですが、ここまでささくれ立つような登場人物それぞれの心の影や有り様を描いた作品(への出演)は少なかったように思うので、“ひとつの挑戦”のような気持ちでした。本作を手掛けられた古川監督の長年の想いという側面もありましたし、日本特有とも言える『差入屋』という職業に対してのカルチャーを自分としてはどう切り取るか?ということもひとつのテーマでした。複雑な想いやメッセージ性の入り組んだ作品に参加させていただけて、とても光栄だと胸を躍らせました。ただ、主演をいただけた喜びより、もっと重くしっかりと作品の本質をキャッチし、こちらも演技で打ち返さなきゃいけない、というプレッシャーは大きかったです。40代としての覚悟みたいなものの責任感も踏まえて取り組みました」。 ──古川監督とはどのようなやり取りがありましたか? 「クランクイン前にお話しする時間があったので、ひとつひとつ確認しながら、双方にズレがないかを微調整しながら自分の中で育てていきました。作品論がどうこうという前に、まずは監督と僕がお互いを知るみたいなところが自然になされて。出生だったり、育った環境とかこれまでの歩みみたいなものを語り合って。なんとなくお互いにポロポロと交わした会話が、結果、役柄にとって有効な養分になりました」。 ■「自分の中の精神的な筋肉になったり、骨や血肉になったことに気づくのは、そのあと、ほかの作品を経験してから」 ──丸山さんの経験値としても、新たなステージに感じられるような重要な作品だと感じましたが、ご自身の心境は? 「うれしいです。自分の人生の上でもそうですが、誰しもいろんな経験があるじゃないですか。僕の場合、音楽もそうだし、アイドルとしてのキャリアもそう。でもなかなか実感が湧いてくることが少ない。それが例えば“評価”という意味で言えば周りの目だったりするんですが、自分の中の精神的な筋肉になったり、骨や血肉になったことに気づくのって、そのあと、ほかの作品を経験してからだったりするんですね。役どころや、作品のメッセージ性を踏まえると、人が持つ普遍的で一番フラットなところにここまでアプローチしたのは初めての経験でした。そう言っていただけるのはとてもありがたいことだし、そうなったらいいなとは常に思っています」。 ──『泥棒役者』で初主演されたころと、いまの変化といいますか、違いがあるとしたら、それは成長以外になんでしょう? 「その時々の役に対してアプローチの仕方を、これまでの場数や経験から見いだしてきました。2022年の舞台で劇作家の赤堀雅秋さんと組んだ時に、自分の中でこれまでと違う芝居のアプローチみたいなものを見つけた感触がありました。例えば冒頭から激しいシーンがあれば、その前に稽古場で同等のテンションで“仕込み”みたいなことを試してみるんです。事前にそれをやることで、本番では確信をつかめたような感触を得ました。これは映画など、映像の場合にも適用できるのかしら?と思って、それからはそうした“シーンの仕込み”を毎回本番の前に試すようにしています。演技とそうでない状態の縫い目が見えないようになっていくような感覚とでもいいますか。そんなニュアンスで現場での挑み方とアプローチが変わりました。より丁寧により深く、という意識のところで『こういうこともできるんだ』という発見が舞台でしたから。近年、その意識が大きく変わったのかなと感じています」。 ■「観客の皆さまにとって“違和感がないこと”が一番の理想であり到達地点」 ──本作に限らず、丸山さんが映画で最もこだわることはなんですか? 「『お客さまが違和感を感じないままナチュラルに観てくださること』ですね。いただいた役柄に対してより緻密に、より大胆にアプローチできるか?みたいなことを考え、観客の皆さまにとって“違和感がないこと”が一番の理想であり到達地点です。同時に監督が違和感を感じればそれはその世界感に馴染めていないということなので、感覚の方位磁針のように、違うと感じた部分は修正することを心掛けています」。 ──撮影で印象的だったエピソードはありますか? 「監督がモニター越しにあるシーンの演技を見ていて、お芝居を終えた直後に人知れず涙を拭いていたことがありました。いま、僕たちが演じたシーンが監督の求めていたものと合致したんだという感触を感じた瞬間でした。それがうれしくて、なによりものOKだと思いました。そういう場面は結構ありました。その反面、こちら側からしたらややプレッシャーにもなっていって(笑)。しかしその想いを叶えたい!と思わせてくれる監督なんですよね。ちょっと厳ついお兄さんなんですが(笑)。鬼の目にも涙じゃないですけど、監督が落涙すると僕もグッときてしまい…弱いんです!印象的な時間でした」。 ■「役として対話できたことが僕にとっての財産」 ──北村匠海さん演じる事件の犯人である小島貴史の、狂気に満ちたキャラは衝撃的なものでした。撮影で印象深い部分は? 「金子はとある事情を抱えた人間ですけど、張り詰めた独特の緊張感だけじゃなく、小島とも違うような、自問自答する心境を匂わすような作りにもなっていたと感じました。金子から小島を見ると、あくまでも奇怪な第三者で特異に感じ受けながらも、どこかで他人事とも思えないような心情…というんですかね。 金子の過去に言及する小島のシーンもありますが、これが塀の中とか外とかいう意味を超越して、お芝居したあとにも自身に問いかけられるような場面でした。振り返れば北村さんは独自のレシピで挑んだ芝居という印象でした。冷静に鬼気迫る演技を見せ、監督も大絶賛してて、ちょっと嫉妬しましたけれども(笑)。彼の技術もそうですし、キャリアだけでもない彼の培ってきたものによって、お芝居のなかでどの役にもアプローチできるっていうのはすばらしいなと。役として対話できたことが僕にとっての財産だったと思っています」。 ──金子の眼光がよかったですね。 「本当ですか!うれしい。感想を自分で言わせてもらうと『俺こんな顔してたんや!』ですね(笑)。自分ってこんな表情してたんだ!?っていうのは映画を観て初めて思いました。また、これは僕だけかもしれませんが、現場でのモニターチェックはできるだけしないんです。見ちゃうとその芝居を追いかけてしまうというか、さらに欲が出てしまったりするので、とにかく監督が現場でおっしゃることを体現することに徹します。狙ってうまくできる人だったらいいんですが。監督のなかでOKだったらOKが出るわけだし、それをわざわざ見て確認っていうのは、僕自身が野暮ったいと思っちゃって。あくまでいまの、僕個人の勝手な感覚なんですが。しかしアプローチができる人は常に確認して、微調整することが凄いことだなとも思います。撮影が進んでいくにつれてストレスも重圧も変わっていくし、それが逆にある種の幸福度となって丁寧に変化していく感じでした」。 ──音楽業と役者業とのバランスは、専業の方々より大変だと想像しますが? 「実は“お得なこと”のほうが多い気がします。求められる技術と使う脳みそは違うと思うんですが、表現の部分で言うと、音楽もお芝居もバラエティもそうなんですけど、すべてに共通するのは、余白・空間・間みたいなところで、例えば“休符”みたいなニュアンスです。ここにセンスが出るってよく言われるじゃないですか。 それは現場での把握能力とか相手との空気感や“間”のことだったり。それらの共通点で言えばすべてがその瞬間の“セッション”なんですよね。お芝居もセッションだしバラエティも完全なセッションで。どの“間”で突っ込むか、あるいは引くのかと。その共通点があるから、いろんなジャンルをやることで相互作用が生まれてくるので、感覚としては結構お得なんです。コメディアンって言われる方は一つ必ず芸があって、かつお芝居もできるし笑いもできる。そうしたことが1本筋が通ってる気がします」。 ■「幼いころから僕の父が言ってたのが『謙虚でいなさい』という言葉」 ──親と子どものつながりについても、すごく考えさせられる作品になっていました。丸山さんご自身でなにかご家族とのことで心に残ってることは? 「そういう側面もありますね。親子の在り方や、加害者側のシーンなど。幼いころから僕の父が言ってたのが『謙虚でいなさい』という言葉でした。謙虚とは、調べると『へりくだる』という意味も含まれてるんですよね。仮にある程度の評価があったとしても、回答には極力控えめにと。いまも印象に残る父の言葉で、それを努めるようにしていますが、アイドルとしてもその時代や時期としてステージが変わってくると、へりくだり過ぎても逆に嫌味にもなってくる場合もあると思うんです。ってことは、謙虚さの形が立場やキャリアや年齢によって変わってくるのだと。いまでも謙虚さの塩梅ってやっぱり難しいし、その言葉はいつでも忘れていません。ちなみに(父が遺した言葉みたいな話に聞こえるかもしれませんが)、父は元気ですよ(笑)」。 取材・文/米澤和幸