正しく人を愛するというのは、どうしてこうも難しいのだろう。『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)第8話では、さまざまな愛の形が複雑に重なり合っていった。 ホストクラブ「THE JOKER」の看板ホスト・つばさ(荒井啓志)をナイフで切りつけようとした明菜(吉瀬美智子)が殺人容疑で逮捕される。明菜は歌舞伎町のホストが殺された事件の犯人で、現実から目を逸らすために散財していたのだ。しかし、つばさがその事実を知った上で自分からお金を引き出そうとしていたことが分かり、事件を起こした。 もちろん、お金を使ったのは明菜の意思であり、「自己責任」というつばさの言葉も理解できなくはない。だが、明菜の行動の根っこにあったのは起業するための資金を稼ぐつばさを応援したいという純粋な愛であり、その愛を利用して明菜を歪ませたのはつばさだ。「誰かの一番になりたかった。心から感謝されたかった。私がいないと生きていけない存在がほしかった」という明菜の台詞が切なさを残す。百々子(田中みな実)が言うように、人に愛がある限り、誰もが明菜になる可能性はあるのだろう。 愛は人を良くも悪くも変えるものだ。愛は人を歪ませることもあるけれど、人を成長させることもある。愛実(木村文乃)に家を出る覚悟を決めさせたのは、カヲル(ラウール)への愛だ。いつも正しい選択をしてきた愛実が、初めて常識の壁を超えてホストであるカヲルと恋をした。たとえ結ばれなかったとしても、誰かを愛した記憶は自分を支えてくれる。 明菜が起こした事件のことを知り、知恵熱を出した愛実を看病したカヲル。愛実が目を覚ますとカヲルの姿はなく、テーブルの上に食事と「チワワ先生はねがおのほうがび人だな。先生、元気でな。鷹森大雅」という手紙が置かれていた。文字を書くのをあれだけ嫌がっていたカヲルが一生懸命、漢字で綴った愛の言葉に胸を打たれる。 読み書きは得意だけど、家事が苦手な愛実と、家事は得意だけど、読み書きが苦手なカヲル。正反対の2人だが、互いに足りない部分を補い合いながら一緒に生きていく。それがきっと、カヲルの願う未来なのではないだろうか。しかし、カヲルは愛実のために身を引き、自分に怪我をさせたことを謝りにきた川原(中島歩)に彼女を託した。常に自己愛で行動していた川原も、そんなカヲルの愛に心を動かされたように見える。 事件後、一時休業していた「THE JOKER」は1日限りの再開をもって閉店することに。その決断を下した社長の松浦(沢村一樹)は若い頃、自分もホストのプレイヤーとして活躍していたが、愛する人ができて引退しようとした際にオーナーと揉めて、仲裁に入ったスタッフを死なせた過去があった。そのため、自分の店を持った時から「もし人の命に関わることがあったら、この商売から身を引く」と決めていたという。荒れた生活を送っていたカヲルを拾い、ホストとして育て上げた松浦。カヲルを引退させようとしたのは、こうなることがどこかで分かっていたからだろう。 そこで気になるのは「松浦がなぜ、そこまでカヲルに愛情をかけるのか」だ。視聴者の間では、以前から松浦がカヲルの父親ではないかという声も上がっていた。その説が正しければ、松浦に前科がついたことで奈央(りょう)が一人でカヲルを育てることになった可能性も。松浦がホストを辞めようとしたのは23年前、そしてカヲルが現在22歳という年齢からも辻褄が合う。カヲルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる松浦からも親としての愛情が感じられた。もしかしたら松浦は自分とは違い、カヲルには愛する人と一緒になってほしいという願いもあって店を閉めることを決断したのかもしれない。 一方、誠治(酒向芳)は家を出て行こうとする愛実を部屋に閉じ込める。誠治が一週間会社を休んでいたのは愛実のためではなく、部下にパワハラで訴えられたからだった。それでもなお、家族に一切弱音を吐かなかったのは父親としてのプライドだろう。妻の早苗(筒井真理子)と愛実を養うために会社での地位を上げ、そのストレスから家庭で傍若無人に振舞ってきた誠治。やり方は完全に間違っているが、誠治も誠治なりに家族を守ろうとしてきたのだ。それを知って自立への思いを強くする愛実だったが、誠治は許さなかった。そんな誠治に早苗は初めて歯向い、身体を張って愛美を逃す。松浦の愛と早苗の愛が、カヲルと愛実を再び引き合わせることに繋がるのだろうか。